じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

【5/31(13)】遠藤千晶《生田流箏曲》 #charity531

歴代の日本伝統文化振興財団賞の全受賞者による5/31東日本大震災チャリティ公演「古典芸能の夕べ」の出演者の紹介するシリーズ。今回は第13回受賞者の遠藤千晶(えんどう・ちあき)さんをご紹介いたします。
贈賞理由は以下です。 「生田流箏曲演奏家として、近年とくにめざましい活躍を示している。古典から現代曲まで幅広いレパートリーへの意欲的な取り組みと、すぐれた演奏成果に大きな期待が寄せられている。日本の伝統文化の明日を担う存在として高く評価できる。」

詳しい芸歴は、「じゃぽ音っと」のこちらのページでご紹介しています。→http://japan.japo-net.or.jp/cultivate/recipient/recipient_13.shtml

遠藤千晶さんは1972年、福島市のご出身。箏曲家のお母様・遠藤祐子さんから手ほどきを受けて才能を育み、12歳からは東京で砂崎知子さんに師事されて、中学2年のときに宮城会主催全国箏曲コンクール演奏部門児童部第1位に入賞。学校のクラスを見回しても箏を習っているのは珍しいという世代。後に遠藤さんは、「その時自分は特殊なのかなあと勘違いし恥ずかしくてみんなには隠しておりました」――と語っています。

その後、遠藤さんは東京藝術大学・大学院へと進みます。平成10年(1998年)に大学院を修了後、進路について悩んだと言います。――「卒業後は教授者となって弟子をとるか、演奏家としてステージに立つのか迷いました。そのような二足のわらじを履いている人は少なく、両立は難しく、苦しいものです。しかし平成14年5月の全国大会で優勝し、またCD『水晶の音』(邦楽の友社)を出し、福島と東京でリサイタルや箏の指導も行い、自分の目標としていたことが実現しましたので、気持ちに余裕が出来ました。今後は東京や福島を拠点とし演奏や指導に全力を傾けたいと思っております。」(これらの遠藤千晶さんの発言は、HP「古関裕而 歌い継がれるメロディー」()内の「福島の音楽」のコーナーにある、「箏曲の魅力―遠藤千晶と八橋検校」という遠藤さんへのインタヴューを含む記事内からの引用です)

平成14年(2002年)の第8回長谷検校記念全国邦楽コンクール最優秀賞および文部科学大臣奨励賞の受賞は、邦楽界の新星の登場として大きな注目を集めました。そして、2007年には「遠藤千晶箏リサイタル ―挑み―」(紀尾井小ホール)の演奏に対し、第62回文化庁芸術祭新人賞受賞。2009年に日本伝統文化振興財団賞を受賞しています。

2009年5月28日、アイビーホール青学会館での第13回日本伝統文化振興財団賞贈呈式の模様をレポートした記事を当財団HP「じゃぽ音っと」内に掲載しています。→

この記事の最後に掲載されている遠藤千晶さんへのインタヴュー取材で今後の活動の夢や目標を訊かれ、――「やりたいことをただやるだけではなく、伝えるとかつなぐという役割を一端でも担っていきたい。」――と仰っているところに、わたしは、遠藤さんの音楽家としての強い芯の在り処を感じました。その芯から、深く広く根が生えていき、高く美しい樹木となって空へ伸びていちめんの花を咲かせる鮮やかな姿を、遠藤千晶さんの奏でる音楽は、いつでも聴き手に伝えてくれます。


こちらが、遠藤千晶さんの財団賞受賞記念のDVDです。→ じゃぽ音っと作品情報:第十三回日本伝統文化振興財団賞 遠藤千晶(生田流箏曲) [日本伝統文化振興財団賞受賞制作DVD] /  遠藤千晶


普通ならば受賞記念DVDは当然受賞が決まってから制作の打合せを行なうのですが、遠藤さんの時は例外で、2月初旬の受賞決定時、既に5月に遠藤さん自身の主催で箏とオーケストラによる演奏会の開催が決まっていたことから、審査員の先生方とも協議の上、そのコンサートをライヴ収録して記念DVDとすることになったという経緯がありました。

紀尾井ホールで開催されたこの演奏会については、「じゃぽ音っと」に音楽評論家の小沼純一さんによるレポート記事が掲載されています。→ 「遠藤千晶箏リサイタル −凜− soloist /古典と現代をつなぎ、作品と演奏が一体となってひびいたリサイタル」

当日演奏された作品は、八橋検校:「乱輪舌」、沢井忠夫:「楽」、藤原道山:「凜」(委嘱初演)、宮城道雄[近衛秀麿、近衛直麿編曲]:「平調『越天楽』による箏変奏曲」、藤井凡大:「和楽器管弦楽協奏のための一楽章」、石井眞木:「箏と管弦打楽のための雅影」。

石井眞木さんの「雅影(がえい)」は、1980年に沢井忠夫さんが日本青年館で箏とオーケストラのための演奏会を主催した際に委嘱初演された作品で、当時わたしもこの作品を聴いて深い感動で圧倒されたことが今でも鮮烈に思い出されます。箏のパートは「乱輪舌(みだれりんぜつ)」から影響を受けて作曲されており、箏の古典的で雅びな佇まいと、オーケストラという新しい素材が絡み合っていく姿がダイナミックに描かれています。その「雅影」の沢井忠夫さん以来の久々の再演、しかも遠藤千晶さんの独奏で! こうしてDVDとして音と映像の記録が残ったことは、日本の音楽の歴史においても大きな意味のあることだったと今更ながら強く思います。(「雅影」は石井眞木さんの手で、沢井合奏団の演奏のための“独奏箏と箏群のための版”も作られていますが、オリジナル版での石井さんの素晴らしいオーケストレーションはやはり格別です)

当時、沢井忠夫さんは石井眞木さんについて次のように語っていました。──「あるとき、石井さんに貸していた箏が突然風かなにかで鳴って、石井さんが感激して電話をかけてきたことがあった。そうしたことが、作曲家・石井眞木と箏の関わり合いの基本にあるのではないか。」

1980年の沢井忠夫さんの記念碑的コンサートは、コロムビアからライヴCDが発売されています。遠藤千晶さんが、自分で箏とオーケストラのコンサートを開こうと決意したきっかけも、このアルバムを知ったことにあったそうです。まさしく名盤中の名盤です。『沢井忠夫箏 Concert'80 イン・ライヴ』(コロムビア CD2枚組 COCJ-30215/16)


5月31日の当財団主催のチャリティ公演では、第5回財団賞の山田流箏曲・山登松和さん(三味線)、第6回財団賞受賞者の善養寺惠介さん(尺八)との共演で、中能島欣一作曲の名作「さらし幻想曲」を演奏されます。この顔触れで聴けるというのは、本当に凄いことです。

今回の演奏にかける思いについて、読売新聞が遠藤千晶さんに取材した記事がこちらに掲載されています。(2011年5月16日・月)→ (


遠藤千晶さんと、そのお弟子さんたちのホームページ「クリスタルラインノーツ」(

遠藤千晶さんのブログ 「クリスタル日記」(


東日本大震災チャリティ公演「古典芸能の夕べ」

開催意図、全演奏予定曲目はこちら→ 東日本大震災チャリティ公演〜日本伝統文化振興財団賞歴代受賞者による〜古典芸能の夕べ
【日時】平成23年5月31日(火) 午後6時開演(4時半開場)
【場所】紀尾井ホール(1階) 
【入場料】5,000円(全席自由)
この公演チケットで、第15回日本伝統文化振興財団賞贈呈式(午後5時開始)にもご入場いただけます。
【チケットお申し込み】日本伝統文化振興財団 電話:03-3222-4155(平日11:00〜18:00)
インターネット:じゃぽマガジン | 伝統芸能 観たい! 聴きたい!
紀尾井ホールチケットセンター 電話:03-3237-0061(平日・土曜10:00〜18:00)

(堀内)