アグスティン・バリオス・マンゴレ（パラグアイ1885-1944エルサルバドル）。パラグアイが生んだ最高のクラシック・ギタリスト兼作曲家と言われています。1970年代、幅広い活動で著名なギタリスト、ジョン・ウィリアムスの演奏により、世界的に知られるようになりました。1976年頃にロンドンで録音されたウィリアムスのオール・バリオスによるリサイタルLPが決定的な役割を果たしたと言われています。映像：映画「ディア・ハンター」のテーマ曲を演奏→YouTube ◎パラグアイは南米の中央よりちょっと南、ブラジルとアルゼンチン、ボリビアにはさまれています→パラグアイ共和国 ｜ 外務省
「大聖堂」はバリオスの代表的なソロ・ギター作品でクラシック・ギターの最重要レパートリーのひとつとも言われ、（１）プレルディオ（２）アンダンテ（３）アレグロの三楽章から成ります。アンダンテとアレグロはウルグアイのモンテビデオの大聖堂で着想（オルガンでバッハが演奏されていたという）し1921年に作曲、プレルディオはキューバのハバナの大聖堂で着想し1938年に作曲。アンダンテは大聖堂に集まった信徒たちの祈りの念、アレグロは祈りを終えて外の通りへ出て行く人々の感動の余韻をとどめた足取りを表現。プレルディオ（プレリュード）は前奏曲の意でサウダーデ（郷愁）の副題を持ちます。
多くのギタリストがCDに収録していますが、その中から六枚をご紹介しましょう（各盤の録音データは「大聖堂」について）。
ジョン・ウィリアムス／バリオス作品集
まずは「バリオスはギターのショパン」と語るウィリアムスのこれ。バリオス没後50年記念レコーディングということで、全17トラックすべてバリオスの作品で占められています。男性的なタッチで演奏は力強く、録音はクリア（響きはスタジオ的です）。ウィリアムスによるバリオス演奏の集大成と言えます。彼の恩師セゴビアは生涯バリオスの音楽を認めなかったといいますが・・・。ジャケットの人物はバリオスです。♪録音：1994年、エアー・スタジオ（ロンドン）
村治佳織／ソレイユ〜ポートレイト２〜
ウィリアムスと同じスタジオでの録音。残響感は似通っていますがより柔らかいタッチで演奏されています。三楽章もぐいぐいとドライブする感じではありません。村治さんは後述の福田進一さんに師事されていたそう。このアルバムのジャケットには Special thanks to ミスター・イェラン・セルシェル の表記もあります。♪録音：2010年、エアー・スタジオ（ロンドン）
斎藤明子／アール・ソバージュ
柔らかいがアタック感は少しある音色。アール・ソバージュは「野生の芸術」の意でこのアルバムではマヌエル・マリア・ポンセ、バリオス、エイトール・ヴィラ＝ロボスといった三人のラテン・アメリカの作曲家の作品が取り上げられています。バリオスがショパンへの傾倒を見せたと言われる「ワルツ第三番」も収録。♪録音：1993年、多賀城市文化センター
マリア・エステル・グスマン／ラテン旋風
このジャケット写真とアルバム・タイトルからイメージもの？と思われるかもしれませんが、繊細さの中にもラテンの血を感じる素晴らしい演奏が展開されるスペインはセビーリャ出身のマリア・エステルの作品。写真はご本人です。プロデューサーとマスタリング・エンジニアが女性というのも一聴ソフトな仕上がりに関係しているかもしれません。録音にはほとんど気にならないレベルですがノイズ感があります。♪録音：1992年、府中の森芸術劇場ウィーンホール
福田進一／ハイパー・アンコール
村治さんの師匠という福田さんの、日本人らしさを感じる丁寧な演奏。タッチは強くありません。伊熊よし子さんの解説には「シンプルで自然体。高度なテクニックを要する曲でも、かろやかに肩の力を抜いた音で紡がれていく…」とあります。録音は少しこぢんまりとしていますが本来のギターの音像はこのくらいでしょう。♪録音：1998年、静岡音楽館AOI
イェラン・セルシェル／大聖堂〜ギター作品集
私はギター録音の際のリファレンスとしていますが、この盤は演奏、録音ともに本当に素晴らしいです。アナログ録音技術が頂点に達するころ、30年以上前に北欧の教会で録音。わずかにかわいた空間の響きが見事に捉えられています。そして、＜南＞ではなく、＜北＞の音楽になっている。「大聖堂」がまるで別の曲に聞こえてきます。鈴木大介さんが書かれていますが→イェラン・セルシェルで泣いてみる(T T) ギタリスト 鈴木大介のブログ/ウェブリブログ、私も一番好きなギタリストかもしれません。リラックスしたいときや雨の日に自宅で流しておくにも最高の一枚。♪録音：1980年、ヴィリエ教会（スウェーデン）
（J）
