じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

御礼「古典芸能の夕べ」

昨夜の当財団主催公演「古典芸能の夕べ」は、紀尾井ホールの1階席と2階席を満員にして大盛況の内に終了いたしました。特別にボランティアでご出演いただいた演奏者の皆様、ご来場いただいたお客様、義援金を賜りましたすべての皆様に心より御礼申し上げます。公演の収益金と義援金箱に頂戴した全額は日本赤十字社に寄附いたします。(後日、当財団ホームページ「じゃぽ音っと」でもご報告いたします)


これまで例年の「日本伝統文化振興財団賞」の贈呈式では、受賞者の短い演奏披露の後、邦楽に関係する方々をお招きしての交流会を開催してきました(当初は受賞分野の方々のみでの開催でしたが、ここ6、7年は分野に捕らわれず幅広い邦楽界の交流の場を作って参りました)。今年第15回財団賞の受賞者、狂言方大蔵流の山本泰太郎さんについても、当初は5月31日の贈呈式と交流会を想定し、その準備を進めようとしていた矢先の3月11日に大震災が日本を襲いました。その後、当財団の理事のお一人からお手紙を頂戴し、今年は例年のような交流会ではなく、東日本大震災で被災された方々への何か支援を考えられないだろうか、との示唆がそもそもの発端でした。あとは、どうすればよいか、出演者の皆様との打合せなども自然に決まっていきました。(演奏者の方々に連絡をとったのは3月末でしたが、全員がこの会の趣旨に非常に強く賛同してくださり、しかも、全員が揃うスケジュールがこの5月31日だけだという運命的な偶然にも助けられました)

15名の演奏者の皆さんはそれぞれのジャンルを代表する第一人者であり、また大変責任感と意識が高く、震災後の支援についても、はたして、こういう時期に演奏をしてもよいかどうか悩まれていたようです。そうしたこともあって、この公演にかける皆さんの意気込みは相当なものでした。そのことが大変有り難く、昨夜の公演を通常の演奏会を越えたものに高めた要因にもなっていたと思います。

また昨夜の演奏会についてみますと、邦楽は細かく分ければ何十という種目に分かれますが、これだけ多くのジャンルがひとつのプログラム内で一堂に会すことは極めて稀です。たとえば前例としてNHKの特別番組や国立劇場の邦楽公演などがありますが、その際には各ジャンルの代表者として人間国宝など重鎮の出演となる傾向にあり、最も油の乗った世代の各種目の一流演奏家を集めた演奏会というのは、ほんとうに珍しいものです。終演後には、こうした会がもっと聴きたいというご意見を沢山いただきました。

また昨夜の演奏会は、邦楽の次世代を担う演奏家を選んで授与する日本伝統文化振興財団賞の15年の歴史が本当に実力のある確かな演奏者を選んできたことを見事に証明するものでもありました。選出時は若手から中堅だった受賞者は更に研鑽を積まれてどなたも各分野の代表と目されるまでの存在となっています。その時点で受賞者を選考された委員の皆様の慧眼をあらためて思います。このことは、私たちの財団のテーマである「伝統から未来へ」にまさしく合致するものであり、昨夜の演奏会は、当財団の活動の積み重ねがようやく歴史に連なる果実となって舞台上で同時に展開され、非常に感慨深いものがありました。

最後に、昨夜の公演の舞台裏のお話を少しお伝えしましょう。

まずは司会の葛西聖司アナウンサーは、各舞台の前にステージでお話をされたのですが、本当に少ない時間で丹念に楽屋を回って取材したエピソードをご披露していただき、全体の進行を見事にまとめて下さいました。

そして演奏家の方は、舞台へ向かうときの意気込みに並々ならないものがありました。他の種目の優れた方々と共に踏む舞台、その芸の素晴らしさをお客様に聴いてもらいたいという意気込みだったようにも感じられました。

昨晩の演奏会に接したお客様におかれましては、普段は馴染みのない種目もあったかと思いますが、きっと、日本の音楽の素晴らしさ、芸の奥深さを、どの演目からも堪能されたのではないかと思います。

舞台と裏方に関わったすべての人がチャリティ精神を胸に取り組んだ昨夜の演奏会は、さまざまな偶然、さまざまな思いが交差して奇跡的に開くことができたものでした。

(理事長 藤本)