じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

杵屋正邦の存在にもっと光を

いつも「じゃぽ音っと」ブログをお読みいただきありがとうございます。当財団ではブログだけではなくツイッターでも毎日情報を発信しています。→ @japojp

少し遡りますが、今年2011年2月21日(月)にツイッターに以下の投稿をしました。

昨日の財団ブログを読んで。邦楽創作史において宮城道雄、中能島欣一という両巨頭の名声は当然ですが、生涯で千数百曲を残した杵屋正邦の存在にはもっと光が当てられてしかるべきです。 http://bit.ly/hRXXAL
posted at 17:35:52


それに対して、さっそくリツイートが重なって・・・

「去来」とか好きですRT @shichiku63: 各楽器の特性が光る作曲をされた方でしたね RT @japojp: …邦楽創作史において宮城道雄、中能島欣一…生涯で千数百曲を残した杵屋正邦の存在にはもっと光が当てられてしかるべきです http://bit.ly/hRXXAL
posted at 18:28:42

ご賛同嬉しいです!RT @kazutoshi_u: 去来、いいですね〜RT @japojp: 「去来」とか好きですRT @shichiku63: 各楽器の特性が光る作曲をされた方でしたね RT @japojp: …邦楽創作史において…生涯で千数百曲を残した杵屋正邦の存在にはもっと
posted at 18:35:04


翌日22日(火)に、再び当財団から以下のツイッターを投稿。

http://bit.ly/eJ7NNJ →昨日話題にのぼった杵屋正邦作曲「去来」はこのCDに入ってます→ http://bit.ly/gnltCp 邦楽演奏家 Best Take 西潟昭子
posted at 13:54:25


2月24日(木)には次のリツイートが。

拝読しました 「現代邦楽のバルトーク」こと作曲家・杵屋正邦 RT @Pyotr1840: @shichiku63 @japojp (今更ながら)私は聴くだけの素人ですが、杵屋正邦について全くの同感です。ブログにちょこっと書いています→ http://bit.ly/hm0yWz
posted at 15:13:46


杵屋正邦さんは生涯に1,200曲を超える作品を書き、またNHK邦楽技能者育成会を通じて40年間に数多くの演奏家を育てたことでも知られます。その作品は、いわゆる「昔にあったものをそのまま継承して保存する」といった類のものではなく、まさしく独自の視点から投企された現代の音楽でありつつ、西洋音楽のロジック(いわゆる「現代音楽」と称される芸術音楽の領域)とは微妙に位相を異にする地点にあって、今なおコンクールの自由曲などでは多く取り上げられています。つまり生きた伝統となって、今を呼吸し続けています。

このような立場で日本の新しい音楽を生み出したという点で、杵屋正邦は、宮城道雄、中能島欣一と並ぶ三巨人と言ってよい存在であり、演奏家からもリスペクトを集め続けています。にもかかわらず、肝心の楽譜が入手しづらかったり、まだ創作の全貌が掴めていないのが現状です。1960年代後半だったかコロムビアから杵屋正邦作品集のレコードがたしか4枚出ていたと思いますが、これもその後復刻されることなく、CDの時代になってもまとまった作品集の録音は制作されていません。もっと杵屋正邦に光を、と常々感じていました。

そんな折、作曲家の吉崎清富さんが杵屋正邦の研究書『杵屋正邦における邦楽の解体と再構築』を著していることを知りました。Amazon等でも在庫切れで古書の値段も高額で品切れ状態かと思っていたのですが、邦楽ジャーナルさんのネットショップを通じてこのたび購入。(嬉しいことに、出版社側にはまだ在庫はあるようです。お早めに!)

ちなみに・・・私が本書の著者で作曲家の吉崎清富さんの作品を最初に聴いたのは、「電子音楽のためのグリーンスペースの宮」(1979)という大変幻想的な曲名の作品でした。これは「音の始源を求めて7」というNHK電子音楽スタジオ作品を収録したシリーズCDのなかで聴くことができます。このCDシリーズはすべてお薦めです。閑話休題

せっかくの機会ですので、この貴重な書物の内容目次を以下ご紹介したいと思います。


『杵屋正邦における邦楽の解体と再構築』
吉崎清富・著

株式会社出版芸術社
発行日 平成13年10月30日

目次
周縁こそ中心なり/山口修
まえがき
第一章 杵屋正邦という人
第一節 生い立ち
(一)本所時代/(二)関東大震災/(三)疎開の日々/(四)ふたたび東京へ/(五)長唄修業
第二節 修業と舞台
(一)下座音楽の修業/(二)下座の待遇/(三)修業と学習/(四)一本立ち
第三節 苦節の時代
(一)初代杵屋正四郎/(二)二代目杵屋正四郎/(三)杵屋の系譜
第四節 作曲家への船出
(一)復活/(二)コンクール入賞/(三)第一回作品発表会/(四)名人「杵屋正次郎」/(五)出征
第五節 音楽活動の再開
(一)戦後の活動/(二)正次郎問題/(三)数多くの受賞/(四)舞踊音楽への傾倒
第六節 作曲家正邦
(一)後進の指導/(二)作曲に専念/(三)発表会/(四)邦楽啓蒙/(五)数々の栄誉
第七節 人間正邦
第二章 邦楽改革とその同志たち
第一節 日本音楽と邦楽
(一)日本音楽/(二)日本音楽のなかの邦楽
第二節 日本音楽、その形成上の特性
(一)時問経過と日本音楽の流れ/(二)近世邦楽の誕生/(三)変幻自在の三味線楽/(四)「歌いもの」と「語りもの」
第三節 明治という時代
(一)明治新曲/(二)邦楽をめぐる論争
第四節 邦楽改革の動向
(一)三人の先達/(二)四世杵屋佐吉/(三)宮城道雄/(四)中能島欣一
第五節 改革の障壁
(一)大正という時代/(二)荊棘の荒野/(三)演奏家としての技量/(四)作風と主張/(五)ふたつの行路
第六節 大正の旋風
(一)新日本音楽/(二)〈春の海〉/(三)楽器の改良/(四)洋楽とのかかわり
第七節 昭和の改革
(一)新邦楽/(二)現代邦楽/(三)新日本音楽と現代邦楽/(四)邦楽締め出し事件/(五)洋楽作曲家と「現代邦楽」/(六)三つの流れ
第三章 正邦の意図したもの
第一節 邦楽の作曲
(一)こしらえもの/(二)伝統の新生/(三)家元という障壁/(四)舞踊曲への傾斜の理由/(五)創作としての作曲/(六)邦楽譜と五線譜
第二節 正邦のスタンス
(一)正邦からのメッセージ/(二)ふたつの現代邦楽
第三節 NHK邦楽技能者育成会
(一)天与の機会/(二)錚々たる顔ぶれ/(三)実験から本番へ/(四)カリキュラム/(五)五線譜と合奏/(六)正邦の役割/(七)種目別講習生/(八)ボーダーレス/(九)育成会がつくった演奏集団/(一〇)その成果
第四節 正邦楽苑
(一)本音と建前/(二)門人の証言/(三)変則的心技一体/(四)父への反動
第四章 正邦の作品
第一節 創作の全容
(一)作品総数1,354曲/(二)全容把握のためのフィールドワーク/(三)データベース,の作成基準/(四)幅広い種目ジャンル/(五)作品概要/(六)創作の時代推移/(七)創作種目の年次変化
第二節 種目別にみた時代の流れ
(一)単一楽器の器楽曲/(二)異種楽器による器楽曲/(三)舞踊曲/(四)歌曲/(五)放送関係の音楽/(六)劇音楽/(七)その他のジャンル
第三節 楽器編成からみた正邦
(一)データベース/(二)楽器の種類/(三)三絃/(四)箏と尺八/(五)その他の邦楽器/(六)洋楽器/(七)脱・邦楽器
第四節 データベースからみえる新たなもの
(一)編曲のあらまし/(二)難解な曲の命名/(三)同名異曲
第五章 正邦の作曲法
第一節 正邦創作の分析方法論
(一)「中立的レヴェル」分析アプローチの断点/(二)作品を通した正邦と私との対話/(三)分析サンプル抽出の難易/(四)分析アイテム/(五)正邦の創作モデル
第二節 各曲の分析 三絃器楽曲
(一)三絃独奏曲〈去来〉/(二)三絃二重奏曲〈呼応〉/(三)〈三絃四重奏曲第二番〉/(四)その他の三味線音楽
第三節 各曲の分析 その他の器楽曲
(一)尺八三重奏曲〈風動〉/(二)箏独奏曲〈道〉/(三)箏二重奏曲〈波〉
第四節 各曲の分析 歌曲のなかの邦楽落語
(一)歌曲(邦楽落語)〈松山鏡〉
第五節 各曲の分析 異種楽器による合奏曲
(一)尺八、三絃二重奏曲〈明鏡〉/(二)異種楽器による合奏曲〈奏鳴〉/(三)異種楽器による合奏曲〈現代三番叟〉/(四)異種楽器によるその他の合奏曲――イ、和楽器のみによる合奏曲/ロ、和洋楽器による合奏曲/ハ、洋楽器のみによる合奏曲
第六節 正邦創作にみられる総論的な音楽構造
(一)旋律/(二)リズム/(三)「間」/(四)音階/(五)和声(多声性)/(六)ヘテロフォニー/(七)序破急/(八)音色
第七節 創作における杵屋正邦像
(一)正邦芸術の原点/(二)正邦の作曲原理――イ、創作的作曲/ロ、演奏、楽器を重視した創作/ハ、正邦的作曲技法/二、枠組みからの脱却/(三)創作態度――イ、伝統からの創造/ロ、邦楽と洋楽の共存/ハ、伝統芸能から民俗芸能まで
第六章 正邦が残したもの
第一節 邦楽の危機と正邦
(一)維新と終戦/(二)音楽教育の過誤/(三)日本人と西洋音楽/(四)洋楽教育のゆがみ/(五)邦楽家のコンプレックス/(六)改革の動機
第二節 改革者正邦の総括
(一)NHK邦楽技能者育成会/(二)作曲家専業/(三)作品、命/(四)作品発表の場/(五)演奏家への固執
第三節 邦楽の解体と再構築
(一)長唄の解体と再構築/(二)種目の枠組みにおける解体と再構築/(三)邦楽ルールの解体と再構築
第四節 現代邦楽の行方
(一)邦楽畑と洋楽畑/(二)洋楽からのUターン/(三)邦楽畑からの注文/(四)柴田南雄と正邦/(五)現代邦楽の先兵、演奏者/(六)「伝統も元は新しい」ということ
第五節 まとめ
(一)ふたつの邦楽/(二)栄枯盛衰/(三)邦楽/(四)せいほう
あとがき
参考文献
付録「杵屋正邦作品目録」
索引
Summary
論文要旨
以下は、本書に掲載されていた著者略歴です。

吉崎清富(よしざき・きよとみ)
1940年 大館市に生れる
1964年 東京藝術大学音楽学部作曲科卒業
1967年 東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了
1971年 国立ベルリン造形美術音楽大学卒業(西独政府給費留学生)
1971年 ベルリン工科大学研究員
1972年 鹿児島大学教育学部講師
1973年 鹿児島大学教育学部助教
1987年 東京学藝大学教育学部教授
1990〜91年 スタンフォード大学ニューヨーク大学(NYU)、IRCAM(仏)の各客員研究員
2000年 大阪大学大学院文学研究科より学位論文「杵屋正邦における邦楽の解体と再構築」にて文学博士号を取得
現在、東京学藝大学教授。国立音楽大学横浜国立大学教育人間科学部大学院の各非常勤講師。日本音楽学会、東洋音楽学会、国際伝統音楽学会の各会員。 著書及び主要作品他:『新しい音楽――1945年以降の前衛』(アカデミア・ミュージック、1988)、『対位法の泉――理論と実習』(音楽之友社、1989)、〈新しい天地〉(東京交響楽団、CD、1990)、〈ヴァイオリンとマリンバのためのデュオ〉(CD、1986)。ベルリン国際作曲コンクール入賞(西独、1970)、ビオッティ国際作曲コンクール入選(伊、1970)、ブールジュ国際実験音楽祭入選(仏、1978)。

当財団から発売している杵屋正邦作品を収録したCDアルバム、DVDはこちらです。→

 こちらの沢井一恵さんのアルバムには、十七絃独奏曲「いするぎ(石動)」が収録されています。以下のリンク先(「じゃぽ音っと」内、「現代邦楽の世界/沢井一恵」作品紹介ページ)を下にスクロールしていただくと、聴きどころの試聴ができます。

(堀内)