じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「月見座頭」をDVDで

このところめっきり秋らしくなり、東京でも空気が澄んでいるのが感じられます。
秋の恒例、文化庁芸術祭の協賛公演・参加公演が始まりました。芸術祭は参加にも審査があります。この時期、それをめざして企画され、受賞の審査に臨む意欲的な公演が続くので、伺うのが楽しみです。今年の参加公演・参加作品と協賛公演はこちらからご覧になれます。→平成23年度(第66回)文化庁芸術祭
当財団からは芸術祭レコード部門で、今年度次の4作品の参加が認められています。

「奄美しまうたの原点/中山音女 〜幻の名盤復刻〜」
「芝祐靖の音楽 復元正倉院楽器のための 敦煌琵琶譜による音楽/伶楽舎」
「箏・桐韻会」
・「明暗真法流本曲全集」(11月発売予定)

昨年度の文化庁芸術祭の演劇部門では、狂言の山本泰太郎さんが優秀賞受賞の栄に輝きました。そして今年5月にはその山本泰太郎さんが、当財団の顕彰事業である日本伝統文化振興財団賞を受けられました。この賞では、受賞者の技芸を広く紹介する目的で副賞としてDVDの制作をしています。

山本泰太郎さんのDVDに収録された演目は、芸術祭優秀賞の対象となった「月見座頭(つきみざとう)」です。不思議な後味の、狂言らしからぬ異色の曲目と言っていいかもしれません。中秋の名月の夜、月見はかなわなくても虫の音を楽しもうと野辺に出た盲人の詩情あふれる世界が繰り広げられるのですが・・・、意外な結末へと展開します。(「月見座頭」の解説は、狂言の海外公演を紹介したこちらの記事に詳しく出ています。→さらば寅年 - じゃぽブログ
山本泰太郎さんの昨年の芸術祭賞贈賞理由は、つぎのようなものでした。

人生の深淵を穿つ名作「月見座頭」。閉眼の泰太郎が劇中の小舞「弱法師」で見せた、ワキ柱の寸前まで突進し長袴の裾軽々と舞台際に舞い込む鮮技は、たゆまぬ稽古の末に体得した自在の手練であって、老巧・山本東次郎のアドに伍する熱演が首尾一貫。他者の理解を超えた盲人の孤心と詩心を示し、絶大な感動を与えた。

このDVDで、多くの方に舞台の雰囲気を感じ取っていただければと思います。共演も芸術祭賞受賞時と同じ山本東次郎さんです。
DVDのもう1つの収録曲は「楽阿弥(らくあみ)」。尺八を吹き死にした男の話で、これは狂言としては珍しい能仕立てで地謡がつきます。収録された小舞は最後の部分ですが、こちも熱演。泰太郎さんの謡と舞が堪能できます。
どちらも古風なたたずまいの杉並能楽堂で撮影されました。→じゃぽ音っと作品情報:第十五回日本伝統文化振興財団賞 山本泰太郎(大蔵流狂言方) [日本伝統文化振興財団賞受賞制作DVD] /  山本泰太郎
なお、昨年度(第65回)の文化庁芸術祭賞レコード部門の受賞作品と、当財団で発行した芸術祭受賞関係作品についてのご紹介は、こちらの記事に詳しく出ています。→第65回文化庁芸術祭賞決定 - じゃぽブログ
今夜は満月に少し欠けるようですが丸い月が出ています。日が暮れて虫の声がさかんに聞こえてきました。中秋の名月からはほぼひと月遅れになりますが、しばし耳を傾けて月見座頭に思いを馳せてみることにしましょう。

(Y)