じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

そこに宇宙の果てを見た/大野松雄

ジャンルを横断して世界各地の真にユニークで独創的な音を探し出し復刻している稀有な日本のレーベル「EM RECORDS」。主宰者の江村さんからわたしに大野松雄さんの昔の作品の復刻の件でご連絡をいただいたのが今年の4月上旬。

ちょうどその頃大野さんは、映画『アトムの足音が聞こえる』冨永昌敬監督)の5月下旬公開に合わせてリリースが決まった新作CDの仕事を終えて一段落されていたとき。この新作CD『大野松雄 YURAGI #10』(HEADZ)は大きな話題を呼びました。ジャケットの絵は、大野さんと縁(ゆかり)の深い滋賀県知的障害者福祉施設「あざみ寮」の寮生、北中こゆみさんが描いたものです。ジャケット・デザインは、わたしがキングレコード勤務時に制作を担当した大野松雄の音響世界1・2・3』(2005年発売、廃盤【註】)や、当財団から復刻発売した『鉄腕アトム・音の世界/大野松雄』でもお世話になった佐々木暁さん。(後者の解説書には、その佐々木暁さんが執筆したライナーノーツも掲載させていただいています)

【註】
 キングレコード盤CD『大野松雄の音響世界』は3枚とも廃盤になっていますが、「<東京の夏>音楽祭2009 日本の声・日本の音」の一環として開催されたコンサート「大野松雄 〜宇宙の音を創造した男」(草月ホール)で音響を担当された金森さんの会社オアシス(Oasis Sound Design Inc.)を通じて、3枚とも最後の在庫が入手可能です。CD販売・購入方法の詳細は直接オアシスにお問い合わせ下さい。同社HPでも販売告知はありませんが、お問い合わせいただければ対応してもらえると思います。ただし、オアシスは西に東にひっぱりだこの音響会社で、スタッフの皆さんも多忙を極めているので、少し時間がかかるかもしれません。メールでの問い合わせは、こちらのフォームを使われるとよいかと思います。→ Mail to Studio Home

そして最近アリオン音楽財団のウェブサイトがリニューアルされ()、<東京の夏>音楽祭の詳細な記録がWEB上から無くなってしまったので、参考のために、当時朝日新聞「どらく」が公演の約一ヶ月前に大野松雄さんを取材したページ(全3頁)をご紹介しておきます。
アトムの音をつくった音響クリエーター 初のライブパフォーマンスに挑む(2009/07/03 朝日新聞 どらく エンタメ>ステージなび)[作品の試聴、インタヴュー動画有り]


大野松雄さんがアトムの足音や効果音響以外に、世にも不思議なこの世ならざる電子音響を作るお仕事もされていることを、あざみ寮・もみじ寮の寮生の皆さんはご存じないそうです。大野さん曰く、「ああいう音を聴いたら、みんな怖がってしまうからね」。実際、わたしも滋賀県まで寮生劇を観に行きましたが(冨永監督の上記映画『アトムの足音が聞こえる』の中に出てくるのと同じ年のこと)、映画では寮生劇のバックに草月ホールでの<東京の夏>音楽祭のライブ収録音源が流れているのですが、寮生劇の現場にはその種の電子音響はまったく登場しません。そこでの大野さんの音の仕事は、芝居の展開に沿って唱歌や歌謡曲、ポップスをキーボードでアレンジしたり、芝居が舞台上だけでなく会場全体を使うため、マイクやPAの細かいバランス調整をすることなどです。

もっとも、大野さんがボランティアで関わるのはこうした「音」の仕事だけではありません。むしろもっと本質的な仕事は、何日もかけて劇を作り上げるまでの、寮生の皆さんとの生活全般を共に生きるプロセスの中にあります。大野さんと寮生の方々とのコミュニケーションのなかで、演劇づくりという活動を通じて、内面や存在の仕方に新たな変化が生じていきます。大野松雄さんの仕事は、いつでもこのように「何かに関わるその仕方」のなかに核心があり、そこに大野さんが生み出すさまざまな作品の秘密があるのではないかと思います。

江村さんから大野松雄さんの『鳥獣戯楽』と『そこに宇宙の果てを見た』の復刻についてご連絡を受けた際に、大野さんに連絡を取ったりと準備のお手伝いをさせていただく傍ら、江村さんに上記のようなことをお話ししたところ、江村さんの探究心に伝染した按配となって、今回の復刻に際しては大野さんと江村さんの間でも濃密なダベリング(哲学・芸術・よろず談義)の交歓がもたれたようです。結果として非常にスムーズに事が運び、しかも大変丁寧で愛情に溢れた素晴らしい復刻盤レコードが出来上がりました。(これは不思議なのですが、経験上、うまく行く仕事は何かの力でさあーっと仕上がります。勿論、時間をかけて進めざるを得ないものもあるわけですが)

これがその作品。拙い写真ですみません。見ているだけで目が洗われます。『鳥獣戯楽』は7インチ・シングル盤レコード。オリジナルはソノシートですが、変型折ジャケットを忠実に復刻。
 

『そこに宇宙の果てを見た』は12インチ・レコード盤。オリジナル・ジャケット・デザインに加えて、今回は、光の加減で違った模様が浮かび上がるホログラム加工。素晴らしいですね。これはどちらも限定盤なので(制作工賃を考えれば、追加生産は有り得ないでしょう)、とにかく早めに入手していただくよう強くお薦めします。

 
 

個々の作品について記すと長くなるので、またいつかの機会に。数日前、大野松雄さんと電話でお話ししたのですが、大変お元気なご様子でした。来月12月10日には、レイ・ハラカミさんの誕生会のイベントが京都のクラブで行われ、それに出演されるとのこと。お時間のある方はぜひ!

「レイ・ハラカミ41歳の“お誕生会” 「広い世界」が京都METROにて開催」(関西ぴあ)

(堀内)