じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

歌舞伎座開場まであと100日!

昨日のブログ担当うなぎさんがDVD「わが心の歌舞伎座」を見ているちょうどその頃(?)新橋演舞場の「十二月大歌舞伎」夜の部に行ってきました。

演目は「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」と「奴道成寺(やっこどうじょうじ)」。
「籠釣瓶」のほうは、吉原一を誇る花魁(おいらん)八ツ橋に尾上菊之助さん、その美しさに一目でとりこになる上州の絹商人、佐野次郎左衛門に尾上菊五郎さん。親子でどちらも初役ということですが、テンポのいい運びで筋もわかりやすく、悲惨な結末も、まるで最近あった事件のようだと思わせるほどリアルな感じがありました。そしてなんといっても菊之助さん演じる八つ橋の、凄みのある美しさ!今後が楽しみです。
もう一つは坂東三津五郎さんの舞踊「奴道成寺(やっこどうじょうじ)」。これは女形が演じる「京鹿子娘道成寺」のパロディで、白拍子花子に化けた狂言師、左近という男が「道成寺」を踊るという趣向です。
白拍子の烏帽子がとれて狂言師の素性がばれたところで、突然三津五郎さんの口上となりました。あっけにとられて見ていると、後ろに並んだ長唄の立(たて)三味線をつとめる杵屋巳吉さんが、八代目杵屋巳太郎を襲名したというご披露でした。ちなみに人間国宝の七代目巳太郎さんは杵屋淨貢(じょうぐ)と改名されたそうです。
続いて舞台の下手側に並んだ常磐津の三味線方、常磐津紘寿郎さんがお父さまの名前を継いで二代目常磐津菊寿郎となったことが披露されました。歌舞伎役者の襲名だけでなく、歌舞伎にかかわる演奏家の襲名も大切なこととして舞台で披露されるという、得がたい場面に立ち会うことができました。
三津五郎さんはいつもながら切れがよく機嫌のいい踊りで、気分よく今年の歌舞伎の見納めができました。
それにつけても思い起こされるのは、三津五郎さんの盟友、中村勘三郎さんの早すぎる逝去です。NHKの追悼番組で、三津五郎さんが悔しそうに「まだ思い出を語るという気分にはなれない」と話していた表情が忘れられません。
ほかのインタビューでも、「本人にとっても、ご家族にとっても、歌舞伎界にとっても、そして私にとっても、絶対に起きてはいけないことが起きてしまったというのが実感です。小さい頃から、同学年で彼が先頭を走ってきたから、僕もそれに遅れまいと頑張ってきたお蔭で今の自分があります。もう二度と同じ舞台には立てないのかと思ったら、自分の人生の半分をもぎとられたような気持ちです」と話していました。将来の歌舞伎をともに背負って立つはずだったよきライバルを失った心情は察するにあまりあります。

来年4月2日の歌舞伎座開場まで、ちょうど今日で100日。演舞場に向かう途中、歌舞伎座の前を通りかかるとだいぶ外観ができあがっていました。
歌舞伎座建て替えの3年間に、中村雀右衛門中村富十郎中村芝翫の3名の人間国宝の方々、そして勘三郎さんと次々に名優を失いました。
しかし悲しんでばかりもいられません。今月も菊之助さんをはじめ、さらに下の世代の中村梅枝さん、萬太郎さん兄弟なども奮闘していました。こうやって世代交代して、これからも引き継がれていくのでしょう。歌舞伎座開場とともに、今後の新しい盛り上がりを期待するばかります。

(Y)

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