じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

浅草で昔の日本文化と触れ合ってきました。

先日、浅草にある「布文化と浮世絵の美術館 アミューズ ミュージアム」へ行ってきました。浅草観光名所を巡る人力車が行き交い、浅草寺・二天門となりに位置するこのミュージアムは、2009年に開業。以前浅草を訪れた時から気になっていた美術館で、一度は訪れてみたいと思っていた場所です。

青森の民俗学者・田中忠三郎氏が、40年以上にわたり、江戸〜昭和に至るまでの衣類や生活用具を収集した、その貴重なコレクションの数々が展示されています。これらは、寺山修司黒澤明都築響一各氏がその美しさを絶賛し、作品制作のために借用するなど、学術的価値はもちろん、芸術性の高い稀有なコレクションとして知られている、とのことです。この美術館のテーマは「日本の手仕事の素晴らしさ」。およそ1時間半かけて、この日本文化をじっくりと堪能してきました。
まずは、1Fの絵画、陶芸、工芸品等を扱うセレクトショップを抜けて、2Fの「BORO」=「ぼろ」と呼ばれる、重要有形民俗文化財に指定されている衣類が並ぶ第1展示室へ。

田中忠三郎氏が長い年月をかけて、青森の村々で収集してきたボロボロの衣類のコレクション。北国・青森の村々では、布はとても希少なもので、一着の着物を何世代にも渡って着ることは当たり前だったとのことです。
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着物の形をした掛け布団で、夜着とも言うそうです。麻布を土台に古手木綿をつぎ足してあり、少しでも厚く温かくするために麻の屑を詰めており、重さ14キロ! ひとりでは持てないほど。確かに触ってみると、ズッシリとした重量感、そして何よりも温かい肌ざわりを感じることができます。南部地方の農山村では、冬の夜、家族は裸で、これを被って眠り、綻びにはツギを当て、過酷な風土から身を守るために粗い麻布を重ね合わせ、刺し子を施して補強。それでも使えなくなった着物は細かく裂いて織り、新しい布に変えた、とのことです。
次に向かったのが、「民具倉庫」のある第2展示室。

東北地方では囲炉裏に薪が燃やされ、年中、自在鉤(じざいかぎ)がかけられ、その下に鉄釜が吊るされていた。薪を燃やす囲炉裏からストーブになったり、長火鉢が普及して、鉄釜から鉄瓶に変わり、アルミや銅のヤカンに変わっていった、との説明がありました。同じフロアには、黒澤明監督映画「夢」に提供された衣装や撮影時の貴重な資料が展示される第3展示室、そして、「美しいぼろ布展」が開催中の第4展示室。


また、6Fには、「浮世絵シアター」があり、浮世絵の中に描かれた当時の文化、下町情緒や風俗を読み解く映像が流れており、これが結構興味深いものでした。代表的な浮世絵の中に隠された秘密(?)の解説が聞けることで、今後は違った角度から浮世絵を観ることができそうです。
展示資料に実際に手で触れ、肌で感じることのできるこの美術館で、かつての日本人が営んだ生活のなかの「厳しさ」や「生きるということの素晴らしさ」を自分なりに触れることができ、自分自身にとって、非常に実のある、有意義な時間であったように思います。遠い昔、「物」を大切にする人々の暮らしが、ある意味今よりも「豊か」であったのでは?そんな昔の日本の姿と接した気分を味わいながら、最上階(屋上)へ向かうと、そこには今の日本の風景がありました。

(よっしゃん)