じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

3・11 思いをつないで


◎2013年3月11日、今日。
2月8日の当ブログ(「鎮魂のうたまい」 - じゃぽブログ)で紹介された「鎮魂のうたまい」の公演が今日、紀尾井ホールで行われます。「三月十一日、14時46分。なき人の霊(みたま)をなぐさめ、うたい まい かなでて 鎮魂の祈りをささげます」という小島美子(こじま・とみこ)先生の言葉に、伝統芸能に関わる多くの研究者・作曲家・演奏家たちが賛同し、大震災で起きたことを風化させない、被災地と被災者に心を寄せてほしいという呼び掛けが実現したのです。福島出身でもある小島先生の呼びかけは、いつも以上に重く、多くの人々の心を奮い立たせたかのように思います。
3月9日の読売新聞朝刊(http://www.yomiuri.co.jp/feature/eq2011/information/20130309-OYT8T00414.htm)の復興掲示板にも、「犠牲者の魂を鎮めるという日本古来からの芸能の原点に立ち返らねばいけない」という小島先生のコメントが掲載されました。私も今日この公演に伺う予定です。紀尾井ホールで会場の皆様とともに祈りたいと思います。
また2月25日の当ブログ(NHKホールで第13回『地域伝統まつり』 - じゃぽブログ)で取り上げた地域伝統芸能まつりのテーマは「鎮(しずめ)―この国に安らかな明日を。」、ここでも大自然の中にある人知を越えた神々の采配に畏敬の念を払い、荒ぶる神を鎮め、五穀豊穣・天下安泰を祈るという、古から続くささやかな人間の祈りの姿が浮き彫りにされました。
弊財団でも、一昨年の財団賞授賞式はチャリティコンサート(公演情報:第十五回日本伝統文化振興財団賞贈呈式/日本伝統文化振興財団賞歴代受賞者による 古典芸能の夕べ 東日本大震災チャリティ公演【日本伝統文化振興財団 じゃぽ音っと】)に急遽変更して行い、人間国宝の竹本駒之助先生が先頭に立ってロビーでの募金の呼びかけをして下さった姿は、まだ記憶に新しいところです。この時の報告は既に何度もホームページで報告させていただきましたので、御記憶があるのではないかと思います。
人々の営みと伝統芸能は本来切り離すことのできないものです。伝統芸能の分野でも、今現実に社会で起きている事にしっかりと目を見開き、身体で感じ、自分なりの声を発するという人々の様々なありように、心打たれるものを感じています。



◎2011年3月11日、あのとき。
私ごとで恐縮ですが、あのとき私は東大寺の南大門の下でひとしきりの雨をしのいで、ホテルに向かっていました。東大寺本坊に、小沢昭一さんの語りで修二会の声明や行法を紹介する「お水取り」のCD(http://search.japo-net.or.jp/item.php?id=VZCG-731)を販売していただいているお礼とともに、修二会に参籠する練行衆へのお見舞の品をお届けした直後の事です。通り過ぎる奈良の町は何事もなく、ただPHSから「東京は大丈夫?」という甥からのメールが届いていました。一体、何を寝ぼけているんだ、と思いながらホテルの部屋でテレビをつけた瞬間・・・。この時のどうしようもない心の動揺を今でもはっきりと記憶しています。
この日は東大寺修二会(しゅにえ)の行(3月1日〜14日)の最中で、お松明に集まった人々に向けて、東大寺別当(べっとう)の北河原公敬(きたがわら・こうけい)さんは異例の呼びかけをしました。「一旦は修二会の中止も考えましたが、亡くなられた方々への祈り、被災者・被災地への思いを込めて本日の修二会を行います。みなさんもそれぞれにできる限りの尽力をして下さい」と。また、十一面観音を祀った二月堂の中では、大導師(だいどうし)の行う諷誦文(ふじゅもん)の祈りの中で、人間の愚かさが招いた惨事を懺悔(さんげ)し世界永遠の平和のための祈願の後に、阪神大震災で失われた御霊への祈りの言葉に加えて、はっきりと東日本大震災で無念にも亡くなられた御霊への鎮魂と、今なお不自由で辛い避難生活をされている方々の一日も早い心の平穏を祈る言葉が、急遽加えられました。
あの日以来、毎年、東大寺では修二会の行われる期間中、北河原別当の言葉も大導師の諷誦文も、変わることなく毎日来場者に呼びかけられ、十一面観音に祈り続けられています。もちろん、北河原別当はじめ多くの僧侶が、宮城県石巻市岩手県陸前高田市などの被災地に何度も赴くという慰霊の旅を行い、籠松明(かごたいまつ)を被災地に贈って人々の心を励ますなどの幅広い活動をされている事は、新聞などでも報道されているとおりです。
大災害と東大寺の修二会の行法、これらは一見何の脈絡もないように思われますが、「一即一切、一切即一(人と人は無限につながっている、すべての人間は縁や絆で結ばれているという意味)」の華厳経の言葉通りに、東大寺でも多くの人々に思いを伝えていることを改めて知りました。
http://www.todaiji.or.jp/message.html
東大寺二月堂で - じゃぽブログ



◎思いをつないで
3月5日、同志社大学寒梅館のホールで、吉永小百合さんのチャリティコンサート・朗読会が行われました(主催:第二楽章を語り継ぐ会、同志社大学学生支援センター)。原爆詩の朗読をライフワークにしている吉永さんの活動は27年目となり、はじめて京都で開催される朗読会には、1000人近い人々が来場していました。
演奏や朗読の合間に吉永小百合さん、村治佳織さんがそれぞれの思いを語ってくれました。村治さんは、あの日、映画「一命」の音楽を坂本龍一さんとレコーディングするために家を出た直後、大きな揺れを感じたといいます。そして余震の続く中、坂本さんとレコーディングを続け、そのテイクが映画にも使われたといいます。このことは、CDジャーナルのインタビュー記事にも有りましたので、既に御存知の方も多いかもしれません。(インタビュー:【村治佳織】 人生も音楽も、旅のように――坂本龍一の書き下ろし曲を含む新作『プレリュード』をリリース - CDJournal CDJ PUSH)また、この日のギター演奏の曲目は、弟の村治奏一さんと相談して、「私たち二人が平和への祈りに代えてこれからも演奏し続けていきたい曲目を選びました」と語りました。
この日吉永さんは、ヒロシマナガサキの原爆詩に加えて、フクシマで被災され現在も仮設住宅で暮らしていらっしゃる佐藤紫華子(さとう・しげこ)さんの詩集『原発難民』から数編が朗読されました。今回は村治佳織さんのギター伴奏という特別プログラムで、坂本龍一さん作曲の<プレリュード>も朗読の背景に流れました。
ギターの音色は様々な人の複雑な心情を語るように奏でられ、吉永さんの朗読は、低く力強く、人間が前向きに生きようとするその力強さを支える大きな力のように聴く者の心に響きました。「被災され、ふるさとを離れ、家族も離れ離れになって暮らす方々や被災地に寄り添う思いを大事にしたい。こうした思いをつないでいこう」というメッセージが強く印象に残ったコンサート・朗読会でした。

心のおもむくままに書き進めてきましたが、伝統芸能という分野でも、寺の行法という場所でも、また一人の女優、一人のアーティストの思いという点でも、この3・11という日、その日以降今現在起きている事柄について、社会の動きを重く受け止め、これからもそれぞれの立場で思いを寄せていこうとしている姿に心を強くする思いがしています。そして自分もまた自分なりの一歩をと、思いを新たにしています。

(やちゃ坊)