じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

入江泰吉・新井満・大野松雄「大和路」

つい最近、ソニーがMD機器の生産を中止するというニュースがありましたが、音も映像も、メディアの移り変わりが本当に激しい。1980年代から90年代にかけては、新しい媒体が登場すると、再生機器を作る電気メーカーとソフト会社が一緒になって、新しい商品をどんどん作っていたという時代がありました。DCC(デジタルコンパクトカセット)やVHDなど、今では再生機器どころかソフトを持っている方も少ないのでは。

今回ご紹介するのは、電通のプロデューサーの新井満さんが制作して、大野松雄さんが音響を手がけた、写真家・入江泰吉さんの作品で構成したVHD(ビデオ・ディスク)映像作品「ジャパネスク 大和路 入江泰吉(VHMD78003)です。企画・製作・著作・発売元は電通。7,800円。当然わたしも再生機器は所有していないので、いつも頼んでいるダビング業者さんに依頼して、DVDに変換してもらいました。電通に本作のマスターテープが残っていれば、もっといい画質で復刻することも可能だと思います。

 

表ジャケットの下部には、「音響=大野松雄」、「映像と音響で体感する日本的なるものの真髄」と書かれています。以下は、ケース裏に書かれている説明文です。

日本人の心のふるさと奈良を撮りつづけて三十年。写真家・入江泰吉の膨大な作品群の中から貴重な名画面を厳選。音響は、大和路の四季を彩る風、鳥、読経の声など現地長期取材音をベースに、現代音楽の奇才・大野松雄が作曲。ジャパネスク・日本的なるものを映像と音響で体感する1時間52分。

この作品をつくったときの話は、以前大野さんから伺っていました。最初、新井満さんから作品の構成について企画構成案を書いてほしいと言われて、大野さんは、企画案の代わりに、詩のようなイメージを連ねたテキストを書いて新井さんに渡したそうです。それを読んだ新井さんからは、「分かりました。音響は全部好きなようにやってください」と言われて、そこで大野さんは奈良の各地をサウンドハンティングのため探訪して、風で生じる塔の上の風鐸の音や、尺八、和讃の音など、たくさんの音を集めて、この2時間近くの音響を構成されたそうです。(その音の一部が、以前、キングレコードから発売された大野さんのCD「大野松雄の音響世界(1)」に収録されています。)

大野さんの電子音響は、入江さんの写真を邪魔することなく、むしろ入江さんの写真が湛えている、時代を超えた超現実的な雰囲気に相応しいものだと思います。

大野さんは若い頃から奈良に関心があり、何度も奈良へ通っていたそうです。たとえば、東大寺の大仏殿の屋根の一番上についている鴟尾(しび)に夕陽が射して輝く一瞬を見るためだけに、ほとんど日帰りのような日程で奈良を訪れたこともあったとか。

昨年4月初旬、私は、奈良薬師寺に伺って修二会(花会式)を聴聞しました〔当ブログ過去記事→ 「薬師寺 花会式」(2012年04月04日)〕。その帰りに京都で大野松雄さんにお会いして、花会式と奈良聲明について報告したところ、「ああ、あれはいいですね。昔ぼくも見に行きましたよ。あの鬼追式で鬼が出てくる場面でね・・・」と、何十年も前に見た場面をまるでさっき見てきたかのように。大野さんのお話にはいつも引き込まれます。

本作「大和路」は、そんな大野さんにとって思い入れのある作品のようです。マスターが発見され、そこからきちんと復元されて、本作品が多くの方にご覧いただけるようになることを願っています。

奈良には、「入江泰吉記念 奈良市写真美術館」があります。私も二度訪れました。ここはとても心が落ち着く場所です。同美術館では一昨年(2011年)に入江泰吉の原風景 昭和の奈良大和路 昭和20〜30年代」という写真集を編集・刊行しています。私は小学生の頃から入江さんの写真が大好きで、図書館では入江さんの写真を見るのが習慣となっていました。

最初にご紹介した映像作品「ジャパネスク 大和路 入江泰吉は、その入江泰吉さんの写真と大野松雄さんの電子音響のコラボレーション・・・。これは私にとって至上の作品です。


大野松雄さんは、今年5月に、2009年の草月ホールでの「<アトムの音をつくった伝説の音響クリエイター> 大野松雄 〜宇宙の音を創造した男」に続く二回目の個展を京都で開催されます。貴重な機会を、どうぞお見逃し、お聴き逃しなく!!

大野松雄 音の世界」
日時:2013年5月25日 18時開演
会場:龍谷大学アバンティ響都ホール
料金:3000円
主催:映像教育研究会、AF
後援:京都シネマ
http://www.af-plan.com/oto/index.html


当財団では、大野松雄さんが手がけたアトムの音を集めたCDを2009年に発行しております。「鉄腕アトム・音の世界/大野松雄」(VZCG-712)。発見されたオリジナル・マスターテープによる「完全復刻」CD化(ジャケット・デザインもオリジナルLP盤仕様)。大野松雄さんの新規ライナーを含む充実した内容のブックレットつきです。



<お知らせ> このたび、私は当財団を退職することになり、この「じゃぽ音っとブログ」を書くのも今日が最後になりました。これまでお読みいただいた皆様に心より感謝申し上げます。当ブログは最近書き手の人数も増えてきて、内容もますますバラエティに富んだものになってきました。今後も「じゃぽ音っとブログ」をどうぞよろしくお願いいたします。

(堀内)