じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「三谷文楽」見てきました

昨年話題になった「三谷文楽」が今年再演される(2013年8月8日 〜8月18日)というので、お盆休みの一日、渋谷のパルコ劇場に行ってきました。(→三谷文楽 其礼成心中 | PARCO STAGE

久しぶりのパルコ劇場でしたが、エレベーターを降りると、お芝居がはじまる前のロビーのざわめきの感じがよみがえりました。

演目は「其礼成(それなり)心中」。劇作家の三谷幸喜さんが初めて文楽の脚本・演出を手がけて話題を呼んだ作品です。開演すると幕の前にメガネをかけた三谷さんとおぼしき一人遣いの人形が現れてごあいさつ。「文楽を初めて見る人」「文楽を5回以上見たことがある人」と挙手をさせると、どちらも同じくらいでしょうか、それぞれ意外に多いなという印象でした。
幕が開くと、太夫と三味線が黒バックのなか、中空に浮いているような高い位置にいます。その下で人形がお芝居を繰り広げるという演出。最初に登場した太夫は豊竹呂勢大夫さん、今年の日本伝統文化振興財団賞の受賞者です。
語りはすべて現代語で、テンポよくわかりやすく、字幕なしですっと耳に入ってきます。カタカナ言葉や「逆ギレ」なんていうセリフも織り込まれていて、それをいつもの浄瑠璃の調子で語るものですから、笑いを誘っていました。あれだけの台本を、千歳大夫さんとほぼ二人がメインで約2時間担当するのは、並大抵のことではないと思います。
人形に気をとられていると、ひとりの太夫が登場人物を語り分けていることを忘れてしまうくらい自然で、文楽の底力が発揮された面でもありました。呂勢大夫さんは財団賞受賞の際、産経新聞に掲載された記事で次のように語っています。

三谷の新作喜劇を一からつくる中で気づいたのも、むしろ古典の大切さだ。「古典の引き出しが豊富でなければ、新作文楽として組み立てられません」

(→http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/130706/ent13070600150000-n1.htm
お話の舞台は300年前の大坂。近松門左衛門作「曾根崎心中」の大ヒットに翻弄された曾根崎の饅頭屋夫婦の物語です。あやかり商品の「曾根崎饅頭」が大評判というところまではよかったのですが・・・。
近松の二大名作「曾根崎心中」や「心中天網島」の名場面が登場するかと思えば、水中の場面が現れたりと、古典を意識しつつ人形が演じる文楽ならではの目新しい工夫もあり、すっかり楽しみました。もちろん三谷脚本らしい泣き笑いとカタルシスもたっぷりです。
ここで初めて文楽にふれた人たちが、もっと見てみたいと文楽の本公演にも出かけてくれるといいのですが、どうでしょうか。
「5回以上見た」に手を挙げた私はといえば、やっぱり文楽がますます見たくなりました。あらためて考えてみると、文楽の古典はもっと荒唐無稽で感情も激しく、すっきりわかりやすいとはいかない分、心をゆさぶるものがあるように思います。どうしてこんなことになってしまうの?と言いたくなるような悲劇的なストーリー展開も、文楽のなかではなぜか納得させられてしまう、そんな不思議な力があります。

9月は東京の国立小劇場で文楽公演があります。通し狂言「伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」で、病気療養から復帰された人間国宝竹本住大夫さんもお得意の演目でご出演です。すでに残席が少ないようですが、まだ間にあいそうです。もちろん呂勢大夫さんも、人間国宝鶴澤清治さんの三味線で出演します。
予習したい方にもどうしても行けない方にもオススメなのが、こちらのDVD。住大夫さんの素浄瑠璃で、「伊賀越道中双六」から「沼津の段」が収録されています。→じゃぽ音っと作品情報:竹本住大夫 伊賀越道中双六「沼津の段」 /  竹本住大夫

(Y)