じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「和様の書」ふたたび


上野の東京国立博物館で開催されている特別展「和様の書」は、いよいよ9月8日(日)までとなりました。先日のブログで紹介しましたが(トーハク特別展「和様の書」 - じゃぽブログ)、展示替えが何点もあること、そしてやはりもう一度見たいと思う気持ちから、ふたたび行ってきました。
書そのものの美しさはもちろんですが、書かれた紙(料紙)や表具の美しさもため息の出るものばかりです。
平安時代に書かれた古今和歌集の冊子本(元永本)や西本願寺所蔵の三十六人歌集など、紙の色や模様のみごとなこと、それに墨を載せる大胆さにも驚かされます。こちらのブログに料紙の写真と説明があります。(→東京国立博物館 - 1089ブログ「夏休みに発見! 料紙の魅力」
美しいといえば、厳島神社の平家納経を挙げないわけにはいきません。前回見たときは上のほうに琵琶などの楽器が散らされていて、音楽が聞こえてくるような巻でしたが、今回展示されていた巻も見返しに色鮮やかな絵、上下に美しい文様がありました。付属品の装飾も贅をこらしたものです。
漢字の羅列に見える写経もいろいろで、琵琶湖の竹生島に伝来した竹生島経(ちくぶじまきょう)はとても上品な感じがするものでした。下絵はだいぶくすんではいますが、金銀泥(きんぎんでい)で描かれたそうで、往時の雅が想像されます。
また「目無経(めなしきょう)」は名前もユニークですが、珍しいものです。国立博物館の館蔵品一覧に、次のような説明があります。(東京国立博物館 - コレクション 名品ギャラリー 館蔵品一覧 金光明経巻第四(こんこうみょうきょうまきだいよん) 目無経(めなしきょう)

後白河法皇を中心に制作が進められていた絵巻が、建久3年(1192)3月に法皇崩御したため制作が中止された。本経は、その画稿を法皇の菩提を弔うための写経料紙に転用、経供養した時のもの。人物の大半に目が描かれてないことから目無経ともいう。

説明を読まなければ見落としてしまいそうな薄い下絵ですが、目鼻が描かれていない十二単のお姫さまがうっすらと見えます。絵巻の完成をまたずに亡くなった法皇のために、絵の下書きのうえをお経で埋め尽くしたのです。用意されていた紙も高価なものだったことでしょう。
前回のブログ記事では、あえて「字を読まない」書の鑑賞のことを書きましたが、くずし字や変体仮名が読めたら、またそれぞれの書の背景がわかったら、もっと楽しい発見があるのは間違いありません。
トーハクのブログのなかに、書の研究者である博物館の島谷副館長のお話が引かれていました(東京国立博物館 - 1089ブログ「書のデモンストレーション」)。
「読めなくても楽しい。でも読めればもっと楽しい。書けなくても楽しい。でも書ければもっと楽しい。」
なんだか日本の音楽の話にもよく似ているような気がしました。歌詞が聞き取れない、古語なので意味がわからない、という理由でお能文楽、邦楽をつまらないと敬遠する人がいます。でも、わからなくても音楽の良さや迫力は感じられるはずです。
「歌詞がわからなくても面白い。でもわかればもっと面白い。歌えなくても面白い。でも歌えればもっと面白い。」
そんな風に言いかえられないでしょうか。
話がそれてしまいましたが、「和様の書」展は9月8日(日)まで。開館時間は9:30〜17:00ですが、6日(金)は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)。日本人ならばぜひ見ておきたい「和様の書」の大集合。この週末が最後のチャンスです。

(Y)