じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

宮城道雄没後60年の年に

本年2016年は「盲目の天才箏曲家」「現代邦楽の父」などと称された宮城道雄の没後60年にあたります。1956年(昭和31年)6月25日、演奏旅行に向かう夜行列車からの転落による最期は、当時の人々に大きな衝撃を与え、哀しみをよんだそうです。宮城道雄はそれほどよく知られ、たいへん人気のある音楽家であったことがわかります。今日では、「春の海」のメロディーは知っていても、作曲者の宮城道雄を知る人は少ないかもしれません。しかし、いまでも宮城作品はよく演奏され、開発した楽器「十七弦」は邦楽合奏に欠かせないだけでなく、十七弦のための新しい曲が次々に創られています。

ちょうど昨年の暮れに読んだ『箏を友として  評伝 宮城道雄〈人・音楽・時代〉』(千葉優子著、アルテスパブリッシング刊)は、箏曲地歌演奏家、作曲家として、また楽器の開発、教育、随筆にと幅広く活躍した音楽家、宮城道雄の魅力を改めて知ることができる興味深い一冊でした。
箏を演奏したり邦楽に興味がある人はもちろんですが、よく知らないという人にも、時代が大きく動いた大正から昭和にかけて才能を開花させ、後の日本の音楽界に大きな影響をもたらした芸術家の伝記として、面白く読めると思います。盲目であったことや悲劇的な最期から、淋しい人生を想像する人もいるかもしれませんが、実はまったくその逆で、友や家族を愛し、何より音楽を愛して各地を飛び回った、朗らかで快活な人物像が浮かんできます。
内容について、日経新聞に掲載された書評から少し引用してご紹介します。(原文はこちら→箏を友として 千葉優子著 現代邦楽の父の革新性と内面|アート&レビュー|NIKKEI STYLE

(前略) 注目すべきは、副題の「評伝 宮城道雄〈人・音楽・時代〉」にも掲げた通り、現代邦楽の父ともいえる宮城の音楽そのものと、彼の生きた時代とともに変遷する音楽観にも言及している点である。 (中略)
ともあれ、読者を惹きつける優しさと親しみに溢れた文章には無駄がなく、とても読みやすい。それは、宮城道雄を知り尽くし、愛して已(や)まない著者ならばこそ為し得たものであろう。
初めて宮城道雄に接する読者でも、これ一冊で宮城について理解を得られるし、もう少し詳しく知りたい人や、宮城作品を演奏する人たちにも、その時代背景や曲の成り立ちがよく理解できるお薦めの逸書である。  (京都市立芸術大学名誉教授 久保田 敏子)

この本のなかに、著者の宮城研究のきっかけともなった「諸派の名手による宮城曲」という演奏会(1980年12月23日、朝日生命ホール)のことが出てきます。この演奏会をライブ収録したレコード(1981年3月発売)を復刻した2枚のCDがあり、貴重な演奏を聴くことができます。当時の箏曲界を代表する諸派の名手が宮城道雄作品を演奏した斬新な企画で、超満員だったそうです。

じゃぽ音っと作品情報:諸派の名手の演奏で聴く 宮城道雄作品集(上) /  宮下伸、青木鈴慕 他
じゃぽ音っと作品情報:諸派の名手の演奏で聴く 宮城道雄作品集(下) /  二代 米川文子、野坂惠子 他

没後60年経ってさらに輝き続ける、宮城道雄の演奏や作品を収めたCDを、当財団では数多く制作しています。本を読んで興味をもったという方も、ぜひその音楽を聴いてみてください。こちらから検索できますのでご利用ください。 → http://search.japo-net.or.jp/

(Y)