じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

『日本音楽のなぜ?』

当財団発行のCDの解説や、紀尾井小ホールなどの邦楽演奏会のナビゲーターとしてもおなじみの竹内道敬先生が、『日本音楽のなぜ?』という本を出されました。

(左右社 定価:1850円+税 B6判/並製/200ページ)
日本音楽のなぜ? 歌舞伎・能楽・雅楽が楽しくなる | 左右社
放送大学での講義をもとに執筆されたもので、以前、教材としてまとめられた『日本音楽の基礎概念』という著書の新装改訂版です。教室で先生のお話をきいているような文体でわかりやすく、気楽に読めました。
気になる「なぜ?」の内容ですが、目次には次の15の疑問が並んでいます。

1.日本には日本音楽があるのか
2. なぜメロディーがないのか
3. なぜノリが悪いのか
4. なぜ何を言っているのかわからないのか
5. なぜ指揮者がいないのか
6. どのように伝承されてきたのか
7.どのように作曲されるのか
8.なぜ流儀・流派があるのか
9.なぜ立って演奏してはいけないのか
10.なぜ語尾を震わせるのか
11.なぜ金属製の楽器がないのか
12.なぜ調律・調弦をしながら演奏するのか
13.なぜ聴く機会がないのか
14.伝統芸能・伝統音楽とは何か
15.日本音楽の特色と将来

この15の疑問に答えるという構成になっていますが、それぞれに必ずしも明確な答えがあるわけではありません。しかし、そこは自由自在に日本音楽の世界を語る先生のことですから、歴史のお話もあれば、昭和の名人たちのエピソードもありで、話題は広がっていき、それがまた面白いのです。印象に残った部分を少し引用してみます。

日本音楽は長い歴史があります。そしてそれはたがいに影響し合い、複雑な形をしています。一言では説明できません。別のところで申し上げるように、その根本には自然の神に対する恐れと尊敬がありました。そして言葉を大切にする伝統がありました。それらはさまざまに形を変えて、現在に至っているのですが、いまでも外部から影響をうけて、少しずつ変化しています。・・・

ここから先は、ぜひ本を手にとって読んでみてください。
副題に「歌舞伎・能楽雅楽が楽しくなる」とあるように、雅楽能楽から説き起こしていますが、やはりご専門の三味線音楽について多くの紙面が割かれています。歌舞伎に関心がある方には、とりわけ興味深い内容かと思います。
そして、「おわりに」で次のように締めくくられています。日本音楽の将来のために、感想を伝えることならば、ささやかながら私にもできるかもしれないなぁと思いながら本を閉じました。

ぜひともナマの演奏を聴いていただきたいのです。そして感動した、良かったという褒めの言葉を演奏家に伝えていただきたいのです。たまたま会うことがあって褒めるのもいいのですが、それこそハガキ一枚でいいのですから、演奏を聴いた後すぐに、褒めていただきたい。実は演奏家にはそういう反響が伝わっていないのです。ナマの反響ほど本人を励ますことはありません。 (中略)
そうして優れた演奏家を育てるのがあなたの仕事なのです。そうすればこの素晴らしい日本の音楽も勢いを盛り返して、次の世代に伝わっていくことでしょう。どうぞ積極的にナマの演奏を聴いて(良かったら)褒めてあげてください。お願いします。

(Y)