じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「伝統を未来に・・・」2021

頌 春

 日本伝統文化振興財団は平成五年の発足以来、日本の伝統文化の振興と発展に向けた公益事業に取り組んでまいりました。引き続き無形文化の記録・保存・公刊、公演事業、国際交流、教育支援など日本の伝統文化を支える事業を推進していく所存です。

 昨年来猛威を振るうコロナ禍は、日本はもとより世界中の文化に対する脅威ともなっていますが、いまこそ文化を将来に継承し、振興していくことが責務であると考えております。ともに手を携えて、この難局を乗り切って参りたいと存じます。 

 皆さまには、変わらぬご支援ご協力を賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。

 

      令和三年元旦

 

          公益財団法人日本伝統文化振興財団 理事長 藤本 草

「雪墨 YUKISUMI/藤本昭子 佐藤允彦」文化庁芸術祭(レコード部門)大賞受賞!

日本伝統文化振興財団制作のCD「雪墨 YUKISUMI/藤本昭子 佐藤允彦」(2020年4月22日発売)が、令和2年度(第75回)文化庁芸術祭レコード部門の大賞を受賞しました。

地歌箏曲の藤本昭子さんとジャズピアノの佐藤允彦さんという驚くべき組み合わせで、日本の古典音楽、地歌(じうた)を演奏したアルバムですが、その組み合わせの妙により「ゆるぎない地歌の真髄を際立たせることに成功している」との評価をいただきました。

受賞理由

地歌箏曲とピアノという異次元の組合せでありながら、綿密な計算と両者の豊かな感性によって新たな世界を見事に提示した。「手付」ともいえる佐藤充彦の優れたピアノパートの作曲とそれに呼応する録音、そこに藤本昭子の確かな歌と効果的に控えられた三弦という足し算と引き算の妙によって、ゆるぎない地歌の真髄を際立たせることに成功している。

 CDタイトルの「雪墨」について藤本昭子さんは次のように述べています。

「雪墨」は白銀と墨痕を端的に表す言葉で、真っ白な新雪の上に落とした墨が滲んでいくように「古典と現代」、「様式と自由」、「東洋と西洋」など対極にあるものが出会い、それぞれの輪郭がやがて溶融した果てに、本来の姿がはっきり浮かび上がってくることをイメージしての命名です。古典は今も輝き続けています。「雪墨」は、新たな角度から古典の真価と可能性に光を当てることを意図して企画しました。

 

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藤本昭子さんは日本伝統文化振興財団賞第7回の受賞者です。今年10月18日に開催された「第17回 藤本昭子演奏会」(紀尾井小ホール)で、文化庁芸術祭音楽部門の大賞を受賞されました。同じ年に音楽部門と、演奏に参加したレコード部門の両方で大賞をとる例は、おそらく初めてだろうとのことです。おめでとうございます!

地歌ファンの方も、また地歌にはあまり馴染みがないという方も、ぜひこのCDを聴いてみていただきたいと思います。


惜しくも受賞は逃しましたが、当財団からほかに次のCD3点が今年度の芸術祭に参加しています。あわせてご紹介します。

(Y)

 

演奏会再開/公演情報

2020年10月8日、トッパンホールで開催された「第十四回 善養寺惠介尺八演奏会」に伺ってきました。今年の春から、コロナ禍で邦楽の演奏会も軒並み中止、延期となったなか、本当に久しぶりの演奏会でした。

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チラシには、ご本人のメッセージとして「新型コロナウイルス感染拡大の中での開催につきましては、延期・中止すべきか否か、大変迷うところでございましたが、我々に必要なものは身体の健康は元より、胸のわだかまりを融かし、心に清涼の風を通すことこそ最も大切であるとの思い止み難く、開催を決断いたしました。」とありました。

会場では感染防止対策がさまざまにとられ、客席は一つおきの指定。ホール定員の半分にして、一日2回の公演でした。

祈りのようにも聞こえる「松巌軒 鈴慕」に始まり、「霧海篪」の独奏、田辺頌山さんとの二本の尺八による「鹿の遠音」、三弦の藤本昭子さんとの一挺一管 「竹生島」、 箏の山登松和さんとの自在なコラボレーション「虚空・乱輪舌による構成曲」まで。考え抜かれたプログラムと素晴らしい演奏にしみじみと聴き入りました。生の演奏をその場で全身で味わえるのは何とありがたいことかと思わずにはいられませんでした。

 

邦楽もそろそろ演奏会を再開する動きが出ています。当財団で後援している公演情報はこちらからご覧になれます。

concert.jtcf.jp

感染防止のため、会場の定員を減らしたり、マスク着用、連絡先の届け出など主催者はいろいろと工夫されています。ご協力のうえ、お楽しみいただければと思います。

とはいえ、遠方だったり、体調やさまざまな心配から会場には来られない人のために、オンラインで配信する演奏家も増えています。

善養寺さんもこの演奏会のアーカイブを配信するとのこと。また、はじめから無観客でオンライン配信という公演もあります。自宅でゆっくり鑑賞というのもまた別の楽しみ。こちらもぜひチェックしてみてください。        (Y)

第24回日本伝統文化振興財団賞と第9回中島勝祐創作賞

第24回(令和2年度)日本伝統文化振興財団賞の受賞者は、日本舞踊家の花柳大日翠さんに決まりました。

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花柳大日翠さん

 「日本伝統文化振興財団賞」は、わが国の無形文化の保存・振興・普及に努めることを目的とする当財団の顕彰事業の一環として、伝統芸能分野で将来いっそうの活躍が期待される優秀なアーティストを毎年一名顕彰するものです。賞金は50万円。副賞としてDVDを制作し、受賞者の技芸を広く紹介します。

 花柳大日翠さんの贈賞理由は次のとおりです。

 幼少時から舞踊家の母の膝下で踊りながら育ち、17歳で花柳流名取を修得。私淑の師花柳寿南海に入門して親炙に浴し、古典舞踊の精髄を貪欲にひたすら学び、その成果は早くに実を結んで、定評のある新春舞踊大会賞の連続受賞などもあって、斯界の注目を集め期待が寄せられている。一方、大学の教壇にも立ち日本舞踊の実技と理論を講じ、さらに各地各方面でのレクチャー、ワークショップを通して、日本舞踊の魅力と価値の啓発普及に実をあげている。

 恩師譲りの軽妙な味わいの中に情趣の深さ豊かさを巧みに表現し得る貴重な才能として、また、日本舞踊の将来に明るい希望をもたらす舞踊家の一人として、期待するところ大である。

 古典を大切に活動されてきたとのことですが、創作や子ども向けのワークショップ、大学での指導など、さまざまな分野にも意欲的に取り組んでいる花柳大日翠さん、これからの活躍がますます楽しみです。 

 プロフィールはこちらをご覧ください。→ 

花柳 大日翠《日本舞踊》/第24回(令和2年・2020年度)受賞者 | 公益財団法人 日本伝統文化振興財団

  日本伝統文化振興財団賞の贈呈式は毎年6月頃に公開で行ってきましたが、今年は新型コロナウイルスの影響により、残念ながら見送ることとなりました。後日、副賞として花柳大日翠さんの舞踊を収録したDVDを制作し、発売する予定です。どうぞご期待ください。

 

 また、当財団のもう一つの顕彰事業である中島勝祐創作賞は、今年第9回を迎えました。審査委員の厳正なる審議の結果、今回初めてのケースとなりますが、2つの作品に贈呈することが決まりました。野村祐子さん作曲「桜花三章(おうかさんしょう)」と、新内多賀太夫さん作曲「寿猫(ことぶきねこ)」です。

 「桜花三章」は箏曲演奏家、野村祐子さんによる歌・箏・尺八という編成の曲。「寿猫」は新内節演奏家の新内多賀太夫さんによる、浄瑠璃と三味線にお囃子が加わった曲です。新内多賀太夫さんは第22回日本伝統文化振興財団賞の受賞者でもあり、両賞のダブル受賞は鶴澤津賀寿さんに続き2人目となります。

 中島勝祐創作賞も財団賞と同様、例年のような贈呈式はできませんが、中島勝祐師の作品とともに受賞の2作品を収めたCDを制作の予定です。ぜひCDでお聴きいただければと思います。

 中島勝祐創作賞について、詳しくはこちらのページをご覧ください。→

中島勝祐創作賞 | 公益財団法人 日本伝統文化振興財団

 受賞2作品と作曲者のプロフィールについてはこちら。→

第9回 中島勝祐創作賞(受賞作品:野村祐子氏「桜花三章」、新内多賀太夫氏「寿猫」) | 公益財団法人 日本伝統文化振興財団

(Y)

 

伝統芸能界から国への「要望書案」ご賛同のお願い(新型コロナ感染拡大の現状を踏まえて)

 このところの新型コロナウイルス感染拡大の現状を踏まえて、伝統芸能界から国への「要望書案」ご賛同のお願いです。ご高覧の上、もしもご賛同いただけましたら、弊財団までメールでご送信いただきたくお願い申し上げます。

 その際には、「お名前」と「ご所属、お肩書きなど」、そしてもしも叶えば「おひと言のコメント」を、お書き添え下さいますようお願い申し上げます。お送り下さいました「お名前」「ご所属等」「コメント」は、国への要望書に記載させていただきます。(もしも匿名をご希望の場合は、お名前は伏せて提出致しますので、その旨をお書き添え下さい)

メール送信先は下記の通りです。

日本伝統文化振興財団infojapo-net.or.jp (★を@に変えて送信してください)

 

 さて、新型コロナウイルスの感染拡大に関わり、伝統芸能界に激震が走っております。先週310日、内閣官房から緊急コロナ対応策第2弾が発表されました。就学児童を持つフリーランスを含めた方々への8300円~4100円の支給を含め、様々な施策が掲載されていましたが、「文化に携わる方々」への言及は一切ありませんでした。

 いつまで続くか分からないこのコロナ問題の今後について、希望を全く持つことの出来ない、国の「無関心」と「無理解」に目を覆いました。

 このところ、伝統芸能実演家、指導者から悲痛な声が私共財団にも数多く届けられています。何か月も準備してようやく公演の日を迎える頃に、コロナ感染拡大防止のための「自粛」要請です。すべてが無駄になるのを避け、敢えて開催の道を選べば「常識のない、不届きな輩」と非難されるのは、現状では必至です。

 もちろんこれは「洋楽」「洋舞」「ポップス」「ロック」にも全く共通する事象です。演劇界からは、いち早く野田秀樹さんが声を挙げられたことが報道されました。

 しかし、ふだんからほとんど「報道」や「放送」に取り上げられる機会のない伝統芸能はどうでしょうか。公演の大小に関わらず、心血を注いで準備を進めていた会が、次々と中止、延期に追い込まれています。その費用は、その努力はいったい「どこが」「誰が」保障し、評価するというのでしょうか?

 オーバーでなく、この状況がこれから半年以上続けば、もう、戻れないギリギリのところで頑張っていた実演家、指導者の方々は、ただでさえ指導者も指導を受ける側も極めて高齢化している現状の中で、生活の糧を失い、細々と続けられてきた、かけがえのない「私たちの国の伝承」と「未来への継承」のチェーンが途切れてしまう、実に由々しき事態を目前にしています。

 半世紀近く、伝統文化の音と映像の世界に身を置いて参りましたひとりとして、本当にやむに止まれぬ思いで、約100名の方々と団体に「国への要望案へのご賛同のお願い」を先週末に発送しました。

 もとより国への要望書など作成したことがありませんので、全く不十分な文章ですが、末尾に添付しますので、ご高覧いただければ幸甚です。

 当初は319日の提出を予定しておりましたが、昨日17日に芸団協(日本芸能実演家団体連絡協議会)が国に対し、「新型コロナウイルス感染拡大防止による公演の中止等に伴う支援について要望書」を提出されました。

www.geidankyo.or.jp

 ここには、1 公演に携わる企業・団体等への支援、2 実演家・スタッフへの支援、そして、3 国民の鑑賞機会の回復に向けて、の3項目が記されています。ただ、伝統芸能に携わる方々の「悲痛な声」は、まだ十分に届けられていないと感じました。

 私ども財団は「伝統を未来に・・」という思いをずっと持って活動して参りました。そして今、「伝統を明日へつなげる」、そのことが本当に危機を迎えていると考えています。

 これまで、伝統文化、伝統芸能に携わる方々のおひとりおひとりは、声を上げて来られなかったように感じています。今、たくさんの声を集めて届けなければ、と切に願っています。

 取り急ぎ、長々と失礼しましたが、趣旨お汲み取りの上、ご賛同を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

 

公益財団法人日本伝統文化振興財団 理事長 藤本 草

 

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第74回文化庁芸術祭賞贈呈式・祝賀会

 2020年2月13日(木)、東京早稲田のリーガロイヤルホテル東京で令和元年度(第74回)文化庁芸術祭賞の贈呈式が行われました。

 当財団はCD「野澤徹也/杵屋正邦作品集」で、レコード部門の優秀賞を受賞しました。前年のCD「真言宗 豊山聲明 二箇法用付 大般若転読会」大賞に続く受賞です。

  贈呈式では、上野通子文部科学副大臣から当財団の藤本草理事長が表彰を受けました。

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贈賞理由などはこちらの記事をご覧ください。

 続いて開かれた祝賀会では、文化庁宮田亮平長官の乾杯の発声を合図に、各部門の受賞者や関係者が和やかに懇談しました。

 この日は受賞CDの演奏者、野澤徹也さんが夫妻で参加しました。夫人の野澤佐保子さんも「箏・三絃二重奏曲」の箏でこのCDに参加しています。

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 野澤さんの三味線の恩師にあたる西潟昭子さん、巻頭言を寄せた音楽評論家の石田一志さん、曲目解説の森重行敏さん(洗足学園音楽大学現代邦楽研究所所長)も出席し、制作関係者一同で記念写真に収まりました。

 

 また今回、音楽部門では山田流箏曲演奏家の萩岡松柯さんが「第四回 萩岡松柯リサイタル」(2019年10月21日、紀尾井小ホール)で新人賞を受賞し、「天賦の才能と確かなテクニック、幅広い素養、探求心が一つの形を成したものといえ、将来への大きな期待を確信させる成果を挙げた。」と評価されました。

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 萩岡さんは昨年の第23回日本伝統文化振興財団賞の受賞者。一緒に芸術祭賞をお祝いできたのはうれしいことでした。ますますのご活躍を願っています。

(Y)

「野澤徹也/杵屋正邦作品集」文化庁芸術祭(レコード部門)優秀賞受賞!

 昨年9月25日に当財団から発売したCD「野澤徹也/杵屋正邦作品集」が、令和元年度(第74回)文化庁芸術祭のレコード部門で優秀賞を受賞しました。

 三味線演奏家の野澤徹也さんが、現代邦楽の作曲家、杵屋正邦(1914-1996)の作品を演奏したCDです。

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優秀賞の受賞理由は次のとおりです。

文化庁芸術祭 優秀賞受賞理由]

杵屋正邦は、長唄三味線の演奏家・作曲家であり、三味線のほか箏や琵琶、合唱曲など千数百の作品を残している。本CDは、代表的な三絃(三味線)作品8曲を選ぶ。主演奏者の野澤徹也は、特定流派に属さず幅広く活動している。同人の日頃の演奏活動を生かした精緻で高い技量の演奏により、現代邦楽のCDとして高い完成度を示した。

  ブックレットの巻頭言で音楽評論家の石田一志さんは、「膨大な杵屋正邦作品のなかでも・・・(中略)・・・代表的な三絃作品の数々を巧みに選曲したこのアルバムは、現代邦楽のパイオニア杵屋正邦さん独特の決然としてかっこ良い音楽の再興の契機になるかもしれない。」と結んでいます。

 ブックレットには森重行敏さん(洗足学園音楽大学現代邦楽研究所所長)の曲目解説のほかに、「演奏者より」として各曲について野澤さんの思いが綴られています。

 そのなかには「・・・私の演奏している動画がYouTubeにアップされており、学生邦楽の三味線の人たちには憧れをもって試聴しているらしく、それを見て演奏にチャレンジする人が多いようで嬉しく思っています。」(三絃独奏曲「風」)とか、「・・・この曲は地歌三絃指定のせいか、全国の箏曲系の社中や学生などがよく演奏しているので、お手本となるような演奏を心がけました。」(地歌三絃二重奏曲「花簪」)といったコメントもあり、学生やアマチュア演奏家にも杵屋正邦作品は今なお人気が高く、それも意識しての演奏であることがうかがわれます。

 珠玉の杵屋正邦作品の、異次元の演奏力によるもっとも新しい録音を、多くの方々にお楽しみいただきたいと思います。

 (Y)