9月23日(木)の祝日はあいにくの雨模様でしたが、国立劇場(小劇場)で「尺八の会」を聴いてきました。尺八の表現の奥深さ、禅に連なる高い精神性、流派によって異なる呼吸や奏法が醸し出す違いの妙、幅広い可能性──。尺八といっても、けっして簡単にひとくくりで考えられるものではないということを実感しました。
午後1時から「古典本曲の世界」、午後4時から「現代曲の世界」という二部構成。出演者も豪華多彩を極め、これだけの演奏家を一日で聴ける機会は滅多にないのでは? 入れ替え制でしたが、どちらもほぼ9割程度の入り。
「古典本曲の世界」1時開演
◆お話:神田可遊(尺八史家)
松風(まつかぜ)───尺八 善養寺惠介
鈴慕(れいぼ) 布袋軒所傳───尺八 三橋貴風
三谷(さんや)───尺八 岩田西園
門開喜(もんびらき)───尺八 酒井松道
虚空鈴慕(こくうれいぼ)───尺八 川瀬順輔
「現代曲の世界」4時開演
◆お話 小島美子(国立歴史民俗博物館名誉教授)
廣瀬量平:「鶴林(かくりん)」(1973)
───尺八 徳丸十盟
高橋悠治:「偲(しぬび)」(2007)
───地無し尺八 志村禅保
増本伎共子:「月(つき)」(1983)
───尺八 藤原道山、笙 真鍋尚之
中能島欣一:「波濤(はとう)」(1971)
───尺八 青木彰時、太棹 鶴澤清治
吉松隆:「雨月譜(うげつふ)」(1980)
───尺八 菅原久仁義、十七絃 山野安珠美
即興演奏/尺八とピアノによる「即韻即吟(そくいんそくぎん)」
───尺八 山本邦山、ピアノ 佐藤允彦
最初に登場した柿堺さんはどこか海童道祖(わたづみどうそ)を彷彿させるものでした。ちなみに、本日お話(司会)を担当されていた神田さんは海童道祖のCD復刻を何枚も地道に続けられている方です。
酒井松道さんは2006年にCD『酒井松道・鶴の巣籠五態』(コジマ録音)が平成18年度(第61回)文化庁芸術祭大賞(レコード部門)、またリサイタル『尺八の系譜』が平成20年度(第63回)文化庁芸術祭大賞(音楽部門)と、連続受賞の快挙。当財団では、来年に向けて大きな録音企画を進めているところです。
以前コロムビアが制作した3枚組LP『吹禅──竹保流にみる普化尺八の系譜』(KX-7001〜3)は酒井竹保・酒井松道の演奏による名盤ですね(未CD化)。ユリをあまり使わない竹保流の奏法は、静止した祈りの状態を思わせ、果てしない空間の拡がりを感じます。
第二部の「現代曲」はどれも違った傾向を追求していて面白かったのですが、なかでも高橋悠治作品の地無し管(尺八の内部を加工せず、そのため不安定な音色になる)の響きが印象的でした。人間と笛の最初の出会いを思い起こさせると同時に、これが高田和子さんへの追善曲であることを知ると、声と言葉の関係、息と楽器の関係、霊と気配の関係などが迫ってきて、音楽を聴きながらこの世とは別のどこかに触れているような不思議な心地がしました。
吉松隆作品は、始まってすぐに、「これは前に聴いたことがある!」と思って、それがFM放送だったかコンサートだったのか定かでないまま、帰宅してから書架を探してみると、楽譜を持っていました。廃刊された雑誌『音楽芸術』の付録楽譜です。最後に十七絃奏者が鈴を鳴らして終わるところが印象的です。
(堀内)