作曲家・小倉朗(おぐら ろう)さんの著書『日本の耳』(岩波新書)を最初に読んだのは高校生のときでした。今年あらためて読み返したところ、日本人の音感と西洋のそれとの違いについての多彩な視点、推測と仮説の提示が面白く、以前とは比べものにならないほど引き込まれて一気に読了しました。これは、おそらく高校生の頃よりも日本音楽の特質について意識するようになった所為でもありますが、小倉さんの提示する視点で心身内部に潜む「日本」に光が当てられ、過去にこの国に暮らした人々が培ったDNAを身近にイメージできるという面白さこそ一番の魅力ではないかと思います。ポップスやロックやクラシックなどに親しみながらも「日本の耳」は今でも失われていない。なぜなら、日本語をつかって話し考えることが、日本の音楽的感性と結びついているからです。
日本の音楽はまず日本語を土台にして出来ていること。つぎに日常の身体の使い方の影響があること。さらには社会構造の反映として種々のかたちをみせていること。つまるところ音楽とは、その原質は人間の暮らしとの関わりから生まれ、それを頭と心で工夫して整えられていったということ。
小倉さんの考え方や発想の仕方は、つねに具体的かつ柔軟です。論理的に書かれていないのに、いつのまにか膝を打つような箇所が何度も訪れます。「そうだったのか!」 さすが名著といわれるだけのことはあります。もしまだ本書と出会っていない方はこの機会にぜひ!
ところで、来週10月18日(月)に、小倉さんの没後20年を記念して「小倉朗室内楽作品展」が王子ホールで開催されます。平井洋さんのサイト「Music Scene」で詳しく紹介されていますのでご覧ください。作曲の弟子だった高橋悠治さんが小倉さんについてお書きになった文章も掲載されています。◆
没後20年 小倉朗 室内楽作品展
瞬間の速度 持続する意志 飛び交う音を包む光の空気 「形になった感情」(加藤周一)
10月18日(月)19.00 銀座王子ホール
ピアノのためのソナチネ (1937)
ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ (1960)
弦楽四重奏 ロ調 (1954)
2台のピアノのための舞踊組曲 (1953)
木下夕爾の詩による八つの歌 (1956)
フルート、ヴァイオリン、ピアノのためのコンポジション (1977, 86改訂)
演奏:高橋悠治 (pno) 木野雅之 (vln) 一戸敦 (fl) 波多野睦美 (ms) 水月恵美子 (pno) 山本悠加・山本彩加 (pno duo) パシフィック・クァルテット・ヴィエナ (stq)
お問い合せ:小倉朗コンサート実行委員会 042-421-1809
(堀内)