じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

大和田ホールと「六段」と

渋谷に、伝統芸能の公演ができるホールがオープンしました。
JR渋谷駅からだと、南改札を出て西口へ。大きな歩道橋を渡ってセルリアンタワーの近く、歩いて5分くらいのところにあります。

11月に開館した渋谷区の施設「文化総合センター大和田」の3階から7階までが文化ホールで、ここに「さくらホール」と「伝承ホール」と名付けられた二つのホールが入っています。
「さくらホール」は731席の音楽ホール。「伝承ホール」のほうが文字通り伝統芸能を主に対象としたホールで341席。邦楽の演奏会には欠かせない緞帳(原画は千住博さん)も備えています。ただし伝統芸能専用というわけではなく、現代劇、現代舞踏、音楽発表会、ダンス発表会、講演会などに使用することも想定しているそうです。
「伝承ホール」ではいかにもカタイせいか、「大和田ホール」という通称をよく耳にします。大和田というのは、以前ここにあった「大和田小学校」の名を残したものです。このセンターの最上階にあるプラネタリウムも話題になっています。
→文化総合センター大和田

12月1日、渋谷区在住の邦楽演奏家によるオープニング・リサイタル・シリーズの初日、「第24回 野坂操壽リサイタル」に行ってきました。
「六段の調」「五段砧」「秋風の曲」「松竹梅」という箏曲の古典作品のプログラムで、野坂ファンにとって逃せない公演ということはもちろんですが、新しいホールをいち早く体験したいという方も多かったのか、客席は満席。息苦しいほどでした。
ホールの内部は壁面も舞台の反響板も黒っぽい板塀のようなデザインで、お芝居のセットのようだなぁと思って見ていたら、近くの席から「忍者屋敷みたいだね」という声が聞こえてきました。
音に関しては、人によっていろいろな感想があるようです。箏と三味線でも聞こえ方が違うように思いました。ぜひ体験してみてください。


ところで、この野坂操壽リサイタルのもう一つの注目は、グレゴリオ聖歌「信仰宣言(クレド)」と箏曲「六段」との不思議な出会いでした。
中世・ルネサンス音楽研究の大家、皆川達夫先生のお話のあと、先生が率いる中世音楽合唱団の「クレド」と陽旋法による「六段」がいっしょに演奏されたのです。「六段」が、ほぼ400年前に日本に渡来したキリシタン音楽の影響を強く受けているという先生の試論に基づくものです。
ここで詳しく説明するのは難しいのですが、実際に聴いてみて、長さや拍子がぴったり合うというだけでも奇跡のようですが、「六段」の曲の起伏が「クレド」の歌詞の内容と一致しているということにいたっては、たんなる偶然とはいえないように思われます。
6つの段からなる曲の構成については、西洋音楽の6つの変奏曲形式の影響ではないかという説が、じつは前からあったのだそうです。
「クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国」若桑みどり著)という本を読んだとき、400年前にキリスト教と出会った日本人は、いまの私たちが想像する以上にシンパシーをもって受け入れ、大名から最下層の民衆まで競って入信したということを知ってとても興味深く思いました。音楽の世界でも、キリシタン音楽の強い影響があったことは否めません。
海を越えた壮大な音楽の交流の歴史が見えてくるようです。この「六段」とキリシタン音楽の出会いについて、当財団ではただいま検証CDを制作中です。来年の春には発表できそうですので、それまで楽しみにお待ちいただければと思います。

(Y)