じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

CD「箏・桐韻会」

12月22日に発売されるCD「箏・桐韻会」をご紹介します。
解説:谷垣内和子/英訳解説付(English Notes Enclosed) :有澤知乃
収録曲を1曲目から順番に。

1曲目は、唯是震一作曲「三曲第一番」です。
1961年に作曲された、三弦と箏と尺八による三重奏曲です。「三曲」というのは三種の楽器の意味で、江戸時代より、よく合奏されるようになった、三弦・箏・尺八(胡弓)をさしています。三曲合奏では、従来三弦が中心となって演奏されますが、この曲は三種の楽器を対等な関係に位置づけ、伝統的な奏法を生かしながら作曲された器楽曲です。三楽章では、8分の5拍子、4分の3拍子、4分の2拍子とめまぐるしく拍子が変わりスリリングです。尺八は、人間国宝の山本邦山先生です。

2曲目は、松本雅夫作曲「箏四重奏曲 第四番 セクパン」です。
この曲も1961年に作曲された曲で、箏三部、十七弦による四重奏曲です。「セクパン」は通称で、「火焔樹」とも俗称される「鳳凰木」のこと。熱帯地方の街路樹として良く目にする大木で、焔のような真紅の花のイメージが鮮烈のようです。松本氏は、第二次世界大戦ビルマ(現ミャンマー)でのインパール作戦に従軍したそうで、死と対峙して暮らした精神世界が、曲中に感じられるように思います。この曲に寄せて、次のような詩を残しています。
青空に散ったコブシは
白骨となって土にかえる
夕陽に染められたコブシは
南のただれる空に炎の花を
燃え上らせる
血汐の色で碧空を染めぬこうと
燃えるセクパン
と、まだ続きますが(続きは解説書で)詩を読んでから曲を聴くと、はじめは分からなかった情景が、手にとるように浮かんできます。どうしてこんなに不思議な和音が奏でられるのだろうかと。東南アジアの響き、リズムでしょうか、とても印象的な曲です。

3曲目は、藤井凡大作曲「三弦、箏、十七弦による 四重奏曲」です。
この曲は1962年に作曲された、三弦、箏二部、十七弦による四重奏曲です。藤井凡大氏は、邦楽器を用いた個性的な曲を多く作曲されました。思わずリズムをとってしまう第一楽章は、長唄ふう。そのシンコペーションを用いた特長的なリズムは、当時、熱中していた囃子の鼓の奏法の影響を受けたものかもしれないと壊述されているそうです。確かに・・、スタスタスットン・・・聞こえてきます。変化に富んだ曲調に、どんどんのめりこんでしまいます。

4曲目は、牛腸征司作曲「十七弦独奏と箏群のための 室内協奏曲」です。
この曲は、1986年に作曲された独奏十七弦と箏合奏群のためのコンチェルトです。正派邦楽会二代目家元中島靖子師の還暦記念リサイタルに際して作曲された曲です。アンサンブルの美しい響きのなかに、十七弦のソロが歌うように力強く飛躍していく様子が華やかです。十七弦は、宮城道雄が考案した当初は、低音用伴奏楽器でしたが、今ではソロ楽器としても人気があります。

最後の曲は、石桁眞禮生作曲「箏による 協奏三章」です。
現代日本を代表する作曲家のうちの一人、石桁眞禮生が1956年に作曲した、箏独奏、箏四部、十七弦による協奏曲です。一楽章はソナタ形式、二楽章は変奏三部形式、三楽章はロンド形式と、洋楽の形式ですが、箏が和楽器であることを忘れてしまいそうな響きと迫力があります。私がはまってしまった二楽章は、聞くたびに「南国の島でハンモックにゆられながら、キラキラ光る海を眺める気分」になります。是非聞いてみてください。

「桐韻会」(とういんかい)は、正派音楽院卒業生の同窓会として発足し、1967年より演奏活動を開始されています。古典曲から現代曲まで幅広く取り組み、参加者それぞれに活動の場を持ちながらも、丁寧な音楽作りを目指していらっしゃいます。定期演奏会も2009年までに42回を数え、委嘱作品には、牧野由多可作曲「カプリチオ」、長沢勝俊作曲「飛騨によせる三つのバラード」などがあります。本作品は、CDとしては、ファーストアルバムとなります。

それにしても、和楽器は準備が結構大変なのですよね。録音の日は、若いお箏屋さんが早い時間に到着して、たくさんの楽器を運んでいたのが印象的でした。
気迫あふれる録音が終わったあとの、ほっと一息のショットです。 牛腸征司先生を囲んで。

(制作担当:うなぎ)