じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

レ・コード館を訪ねて


今年を振り返ってみて、夏が猛暑だったことは覚えているのですが、あとはなんだか慌ただしくすごした一年だったなぁという印象です。
今年の初めはどうしていたのかと手帳を開いてみたら、そうでした!昨年度の文化庁からの委託業務「音楽情報・資料の収集及び活用に関する調査研究」の真っ最中でした。「音楽情報・資料」のなかで、当財団では「日本の基礎音楽資料としてのSP盤」に関して、昨年の夏から今年3月まで調査研究を担当しました。
明治期から昭和期の前半まで、録音・伝達メディアとして重要な位置づけにあったSP盤(レコード)は、当時の豊かな日本文化を伝える基礎的な音楽資料として大きな意味をもっていますが、時代の経過とともに消滅の危機にあります。
昨日のブログでもご紹介したとおり、当財団では日本の音資料のアーカイブを作るという悲願のもと、様々な試み、働きかけをしてきましたが、この調査研究もその一環です。
この調査では、現在SP盤を所蔵している各地の施設を訪ねました。そのなかで印象に残っているところを紹介したいと思います。

一つは北海道新冠(にいかっぷ)町にあるレ・コード館です。今年の2月3日、まさに厳冬の折り、札幌から高速バス「ペガサス号」に乗って、沖のカモメも凍てつきそうな風景のなかを訪ねました。
新冠町では1991年に「ふるさと創生1億円」を活用して「レ・コードと音楽によるまちづくり」の計画がはじまり、1997年に「レ・コード館」がオープンしました。建物もレコードとプレーヤーに見立てたデザインになっています。
レ・コードの「・」が気になる方は、ホームページに説明がありますのでご覧ください。→「レ・コード館」とは
こちらでは全国から寄贈されたあらゆるレコードを所蔵していますが、そのなかでSP盤は約7万3千枚。SP盤を持っていても聴くための蓄音器がなく手放すケースが多く、捨てるのはもったいない、思い出があるので大事に保存してほしいということで寄贈されるそうです。大学や放送局からのまとまった数の寄贈もあるとのこと。
全国から受け入れたレコードの数は膨大で、それを洗浄して保管袋にいれ、記録するだけでもたいへんな手間とご苦労であることが察せられます。ダブりもかなりありそうですが、完全にチェックするには至っていないようです。
ホームページには、レコードについて「このように貴重な文化遺産を21世紀に残していく必要があり、新冠町は、本来、国家プロジェクトとして進めなければならないと思われるような一大事業展開を行っていると自負しています」とありますが、本当にその通りだと思います。
北国の一自治体でそれを引き受けて、淡々と作業されているスタッフの方々には頭が下がりますが、目録を整備したり音を聴けるようにするには、人手も予算も足りないのがよくわかります。きちんと整理して大事に管理されているお宝を、将来は音楽アーカイブとしてもっと活用できるようになればいいのにと考えさせられました。
このときは調査ということで、SP盤を中心に見せていただいたりお話を伺ったりしたのですが、レ・コード館にはミュージアムやレコードが聴けるホールがあって、音楽好きには一日居ても飽きないところです。

ミュージアムでの入口ではリアルなエジソンさんに迎えられてどっきりしましたが、レコードの歴史が実物とともにわかりやすく示されていて、たいへん興味深く、勉強になりました。蓄音器によるコンサートでは、思いのほか美しく、ふくらみのあるSP盤の音に聴き入りました。
こちらではレコード全部を対象にしているので、LPレコードもたくさんあり、ジャケットが展示されています。修学旅行生が来ると、引率の先生のほうが、昔なつかしいアイドルのレコードアルバムを夢中になって探しているとか。
館内の時計もレコードの形でなるほどと思いましたが、隣接するレストランには「レコード・ラーメン」というメニューが。丸い大きなチャーシューがのっていました。なかなかの徹底ぶりです。

近くには新冠温泉レ・コードの湯があって宿泊もできるそうですし、今度はプライベートでゆっくり来てみたいと思いました。北海道に行くチャンスがあれば、足を伸ばしてみることをおすすめします。

(Y)