じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

さらば寅年

年越しの鐘まであと少し。
本年もたくさんの皆様からご支援ご協力、ご指導ご鞭撻を賜りました。
弊財団スタッフを代表して心より厚く御礼申し上げます。

私どもは財団名称の通り、伝統文化の振興につながることすべてを対象にしています。
今日は、その中から今年3月に実施した海外公演をご紹介します。

2007年5月刊行の「山本東次郎家狂言」(監修・解説:増田正造・山本東次郎、DVD10枚組)

制作以来、東次郎先生ご兄弟と一門の皆様には、文化庁国際交流基金からの助成を受け、インドネシアバリ島での狂言公演とワークショップ実施に、3年間にわたりご協力を頂いて参りました。

今年は東京都からの助成を受けて、ニューヨークのジャパン・ソサエティの主催による北米ツアーを3月16日から約2週間にわたって実施しました。
公演メンバーは山本則俊先生を筆頭に、山本泰太郎、山本則重、山本則秀、若松隆の4師。公演演目は「月見座頭」と「止動方角」、ワークショップは「柿山伏」を題材に行われました。

人間の「愚かさ」を笑いの中に描く狂言の中で、「月見座頭」は異色の作品です。仲秋の名月の宵、人々は月見を楽しみますが、目の見えない座頭は虫の音を訪ねて野辺に出ます。幾種類もの虫の音を、名前を挙げながら味わう座頭のそばに、通りかかった男が声をかけます。やがて意気投合したふたりは酒を酌み交わします。お互いに楽しく歓談し求めに応じてひとさし舞い、やがて楽しい宴に別れを告げます。ところが男はふと気分が変わり、道を戻って知らない他人のふりをして座頭を突き飛ばし、笑いながら去って行きます。残された座頭は先ほどの親切な人と比べて、何と無慈悲で卑劣な人間がいるのだと嘆きつつ家路につきます。
「止動方角」は、狂言らしい滑稽味ある演目です。主人に「茶と太刀と馬」を借りて来いと言われた太郎冠者が、後ろで咳をすると突然暴れ出す馬を借り、静めるには「寂連童子、六万菩薩、静まり給え。止動方角」という呪文を唱えのだと教えられます。遅い帰りを待ちかねた主人は、太郎冠者を叱りながら馬に乗ります。我慢出来ない太郎は咳ばらいして主人を馬から落とします。何度も落ちた主人は太郎冠者に乗るように言いますが、今度は主人の口真似をして仕返します。主人は怒りながら馬に乗りますがまたもや咳ばらいで落とされ、馬は逃げ出し、それを追ってふたりは退場します。馬の着ぐるみを身に付けた演者の「ヒヒーン!」という鳴声、振り落とされる主人の大げさな仕草など、大いに笑いが誘われます。

まさに狂言の広がりを示すこの二つの演目をもって訪れた最初の開催地は、ボストン郊外にあるウェルズリー大学でした。
全米屈指の名門女子大学ウェルズリー大学は、近年はヒラリー・クリントンの出身校としても良く知られています。

写真は、宿泊した大学ゲストハウスの屋外です。

さて、ご存じの通り能・狂言は白足袋でしか上がることの出来ない能舞台で演じられます。けれども、能舞台のある都市は日本でも限られていますので、多くの場合「所作台(しょさだい))をホールの舞台に敷いて演じられることになります。
それも叶わない海外の場合・・、土足で上がる舞台面をカバーする何かが必要となります。

上の写真は、大学ホールの舞台設営の始まりで、右手の画面が英語字幕を移すモニターです。舞台後方を隠す黒幕を吊っています。
下の写真は、舞台面にリノリュームを敷き、黒幕の前に日本から持参した「鏡板(松羽目)」に見立てた幕を下げて演じられている「止動方角」です。

この公演の前に、大学講堂でワークショップが行われました。

能と狂言に共通する「摺り足」の稽古をしています。

さて、次の開催地はピッツバーグ
名門大学として知られるピッツバーグ大学アジア研究センター主催の公演です。

大学ホールの向かい側の公園には「草競馬」などの作曲家フォスターの銅像があり、講堂内にはフォスター記念館が併設されていました。

ボストンと異なってワークショップもホールで開催され、140名ほどの学生が参加しました。

正座での挨拶にはじまり摺り足の練習、

そして学生の中から真っ先に手を挙げたひとりに装束の着付けです。
なんと、かわいい男の子?いいえ女子生徒でした。

次の公演はロングアイランドにあるニューヨーク州立大学ストーブルック校。

そしてフィラデルフィア大学では、

演者スタッフ全員で舞台のぞうきんがけ。

ニューヨークのジャパン・ソサエティ本拠地の舞台では、先ず初めに市内の高校生とのワークショップ。

この後、トロントでの最終公演を経て3月31日に帰国しました。


来年はまた、ヨーロッパでの公演を企画しています。
国内での伝統文化、特に伝統音楽公演の紹介が新聞等で特に乏しい中、こうした海外公演の大きな反響を日本に届けたいと切に願っています。

そろそろ除夜の鐘が聞こえてきました。

では皆様、良いお年をお迎え下さい。

(理事長 藤本)