じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

乗り越える一冊

先日とある週刊誌を読んでいたら、「苦難を乗り越える一冊」というテーマでさまざまな作家の方が古今東西の名著を取り上げていました。

もし自分なら……と考えていて、急に思い浮かんできました。

團伊玖磨著「パイプのけむり

團伊玖磨さんといえば、じゃぽ音っとでお名前を検索すると数々の作品がヒットする日本の名作曲家。上記のエッセイ「パイプのけむり」シリーズは長期にわたって連載され書籍化。さらにテーマ別にも本が編まれるなど、このエッセイの熱烈なファンは今もきっと多いと思います。また民族音楽学者の大家、小泉文夫さんとの素晴らしい対談集「日本音楽の再発見」でもおなじみ。

昨年の夏、シリーズで最初に出版された「パイプのけむり」を読みました。東京オリンピック前後、高度経済成長のころに始まったのですが、今読んでも心揺さぶられる素晴らしいものでした。そのなかでとくに大好きなのは「シラミの歌」の話。

図書館で借りて読んだ記憶からなので恐縮ですが、そのお話を少しご紹介させていただきます。

――太平洋戦争中、軍部に要請された音楽の仕事を芥川也寸志さんとお二人でなさっていたときのこと……目の前に現れたシラミを見てつぶやいた「ソラソラシラミ」。

そこへ「ドラドラシラミ」、さらに「ミレドミレド、シラミ」

最後は情感たっぷりに「シー、ラー、ミー!」

とお二人で歌われていたそうです。これがドレミファソラシドの音階であるのは言うまでもありません……戦争中きっとさまざまな困難があっただろうなかに生まれた、どこか心温まる素敵なお話だなと思います。

それにしても、また「パイプのけむり」が読みたくなりました。

(じゃぽ音っと編集部T)