じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

田中信昭先生と東混の演奏会

昨晩、久々に田中信昭先生の指揮、東京混声合唱団によるコンサートに出かけました。田中信昭先生の「エクソンモービル音楽賞」受賞と、東混55周年の記念公演です。プログラムは以下。

■ 14世紀のカノン
夏は来たりぬ
Sumer is icume in(1310頃)

ジョスカン・デ・プレ(1440頃-1521)
アヴェ・マリア
Ave Maria(1502)

ジャヌカン(1485頃-1558)
鳥の歌
Le Chant des Oyseaulx(1528)

モンテヴェルディ(1567-1643)
ほら 波がささやいて
Ecco mormorar l'onde(1590)

■ 三善 晃(b. 1933)
混声合唱のための「五つの日本民謡
 (1973年委嘱作品)
1.阿波踊り徳島県民謡)
2.佐渡おけさ新潟県民謡)
3.木曽節(長野県民謡)
4.ソーラン節(北海道民謡)
5.五ッ木の子守唄(熊本県民謡)

柴田南雄(1916-1996)
萬歳流し −シアターピース−(1975)

■ 土井晩翆:詩/滝廉太郎:曲/林光:編曲 荒城の月
■ 日本古謡/武満 徹:編曲 さくら(1979)
■ 武満 徹:詩・曲 小さな空(1981)
アメリカ民謡/岩谷時子:訳詩/デビッド・ギオン:編曲 峠の我が家
黒人霊歌/ホーガン:編曲 ジェリコの戦い
三木露風:詩/山田耕筰:作曲/篠原 眞:編曲 赤とんぼ
本居長世:詩曲/篠原 眞:編曲 汽車ポッポ


信昭先生とは、今からなんと22年ほど前に、ビクターの「合唱名曲大系」(CD30枚、CD完全対応の楽譜30冊、ビデオ3巻)という大型商品を制作した時、ご一緒させていただいたことがありました。信昭先生には「合唱とは」と題するビデオで、良い合唱を作るためには何が必要なのかを熱く熱く語っていただき、ご自身の指揮や、安積女子高校・福島高校などの合唱指導現場を映像収録しました。このビデオはのちに、単独でも販売されたので、ご存知の方も多いかもしれません。

さてさて、思い出にふけりながらも、コンサートは田中信昭先生の解説と指揮で進行。信昭先生の指揮はあいかわらず端正で鋭いけれど、今日はご本人がいかにも楽しんで演奏していらっしゃるように思えて、おもわずこちらも、引き込まれてしまいました。

ここに、今回のコンサートに先立っての信昭先生のインタヴューが掲載されています。→

そこで信昭先生は、プログラム前半に演奏された海外の作品について、「14世紀のカノン『夏は来たりぬ』は、皆川達夫先生(音楽学・合唱指揮)が、大英博物館の記録から直接記譜してこられたものをそのまま使って演奏します。」と仰っているではありませんか。皆川先生とは、ついこの間、当財団から発売したCD『箏曲「六段」とグレゴリオ聖歌「クレド」』の制作でご一緒したばかりだったので、この偶然にちょっとびっくり。

第二部のはじまりは、柴田南雄作曲の合唱のためのシアター・ピース『萬歳流し』。この作品は、日本の民俗芸能「萬歳」を素材にしたもので、合唱も指揮者もステージ上だけでなく、通路や客席を行き来し、劇場空間全体を使って演奏されます。指揮者も客席内を移動しながら、時々指で「1」とか「4」とかの合図を行うと、その指示に従って女声合唱団が動き、歌います。男声合唱は二人ずつ太夫と才蔵の役で組を作り、烏帽子をかぶって客席内を、二階席にいたるまで何組にも分かれて歌い練り歩きます。才蔵は口上に合わせて手に持った鼓を叩きながら歌い、通路を歩くうちに太夫の広げた扇の上には、いつのまにか「おひねり」が山盛りに・・・。演者も観客も一体となって、作品を楽しませていただきました。

舞台から田中先生が、「柴田南雄先生のシアター・ピースの制作は、たぶん奥様の、音楽学者でありヴァイオリニストでもあった柴田純子(すみこ)さんのお力が大きかったのではないかと思います」と話されて、会場内にいらっしゃった純子さんをご紹介されると、大きな拍手がわきおこりました。

じつは、純子様とはここ数年、東大寺の「修二会(しゅにえ)」にご一緒させていただいています。柴田南雄先生には東大寺の声明を題材にした『修二會讃』という作品がありますが、純子様からは、「私はこのときは修二会の儀式を楽譜に起こす仕事ばかりをして、一度も主人と一緒に東大寺に行ったことがなかったんですよ」というお話を伺っていたので、すばらしい柴田作品の数々は奥様が支えてこられたのだなあと実感できて、感慨もひとしお。田中信昭先生もこうした奥様のお仕事の重要性を、よくよく御存知だったのですね。それにしても、柴田南雄先生の他のシアター・ピースもぜひとも実演してほしいなあ・・・と、感じたのは私だけではないと思います。 (こちらに作品リストが掲載されています→ 柴田南雄公式ホームページ

さあ、終盤は東混の真骨頂ともいうべき日本の歌から「さくら」「小さな空」「赤とんぼ」、エネルギッシュな「ジェリコの戦い」、そして「汽車ポッポ」。ピアニッシモでもはっきり聞こえる美しい日本語とそのハーモニー、力強さと迫力に満ちた声量。「ああ、なんて音楽は楽しいんだ!!」と、心を揺さぶられたまま、地下鉄に乗るのをやめて、しばし風に吹かれながら遠くの駅までぶらぶらと歩きながら家路に着きました。「帰ったら東混の歌う武満作品のCDをもう一度聞こう!」と心に決めながら・・・。


『日本合唱曲全集 風の馬/武満 徹 作品集』(VZCC-24)

このCDは、以前ビクターから発売されていた、岩城宏之指揮 東京混声合唱団による1984年録音『小さな空/〇と△の歌 武満徹 混声合唱のためのうた』(VDR-1074 3200円)に、新たに同じ演奏者で1988年に新録音された武満徹作曲の無伴奏混声合唱のための名作『風の馬』(全曲)を追加収録しての当財団からの再発盤。それでいてお値段はなんと 1500円! プレゼント用に何枚か買っちゃおうかしら・・・?!


『柴田南雄/合唱のためのシアター・ピース (2枚組)』

柴田南雄先生の代表作といってよい作品集。『追分節考』、『北越戯譜』、『萬歳流し』、『念佛踊』を収録。当「じゃぽ音っとブログ」でも何回か取り上げています。心の底から揺さぶられる、音楽の無限のパワーに満ち溢れている作品集です。

じゃぽ音っとブログ2010年12月1日
「柴田南雄のシアター・ピースCD」

じゃぽ音っとブログ2011年3月10日
「奇跡の優秀録音盤」

(やちゃ坊)