じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

ソノシートあれこれ 大正琴・民謡・民俗芸能

これは昭和42年(1967年)8月20日に発行された、『明治・大正・昭和の流行歌――大正琴でつづる 明治百年』(制作:日本ビクター株式会社、発売:ビクター出版事業)。ハードカヴァーで本文は96頁、カラー口絵つき、そして本書の主役である大正琴が奏でる音楽が4枚のソノシート(*)に全25曲収録されています。大正琴の演奏は吉岡錦正、吉岡錦英、宇都宮積善、伴奏はビクターオーケストラ。華美に走らず仄かな哀愁を帯びたアレンジが、何ともいえない情緒を醸し出しています。

(*)「ソノシート」は朝日ソノラマが商標登録をしていました。そこで各社はさまざまな名称を使っていました。ここで紹介しているビクターの場合は「フォノシート」。ですが、本記事ではソノシートで統一します。


解説は添田さつき添田知道)さん、時雨音羽さんをはじめ、錚々たる面々。そしてこの本はとてもレイアウトが美しいのですが、クレジットをよくみると、「デザイン=金子国義」(!)。納得です。

 

収録曲は以下。
【明治のうた】トコトンヤレ節、東雲節(ストライキ節)、鉄道唱歌、美しき天然、ああ玉杯に花うけて、デカンショ節、戦友
【大正のうた】カチューシャの唄、ゴンドラの唄、船頭小唄、籠の鳥、月は無情、ストトン節
【昭和のうた】出船の港、君恋し、島の娘、東京行進曲、浪花小唄、祇園小唄、旅笠道中、麦と兵隊、湯島の白梅、新雪、同期の桜、異国の丘

いっとき、日本国中で大正琴が大ブームになったことがありました。こうしてあらためて聴いてみるといいものですね。ソノシートで聴くのがまたいい感じ。他にもないかと探してみたら、こんなものがありました。

『懐かしの大正琴 ベスト12曲』ソノシート3枚つき。こちらもデザイン、レイアウトは金子国義さん。上記と数曲かぶっていますが、読み物の部分はまったく違うので、少しも損をした気にはなりません。

 


以前ビクターでは、こうしたソノシートつきの本を「ビクターミュージックブック」と称していくつも発行していたようです。これまでソノシート作品はあまり気にしたことがなかったのですが、こうした広告を見ていると興味が湧いてきます。

  

最近出会ったのが、こちら。『少年民謡お国自慢/ビクター少年民謡会』。1962年9月発行。ソノシート4枚、全8曲収録。定価320円で、中に入っていた読者ハガキには「すみませんが5円切手をおはりください」とあります。

録音後のメンバーの座談会なども載っていて、楽しいですね。

ビクター少年民謡会は、いつ正式に発足したのか、そしてメンバーは誰で、何代目まで続いたのか等、わたしもよく知らないのですが、ともかくかつては一世を風靡した国民的人気グループだったのです。

 

わたしが持っていたのはこのLP『民謡お国自慢/ビクター少年民謡会』(JV-1070〜1-S)。昭和43年(1968年)の発売。

見開きの中面は歌詞が印刷されているだけで、ビクター少年民謡会についての情報等は一切ありません。こちらが裏ジャケの右上、曲目が掲載された部分。

上記の昭和37年(1962年)発売のソノシートといくつか曲目が重なっていますが、聴いてみると、ヴァージョンが違うものがありました。「そうらん節」や「黒田節」は、アレンジだけでなく歌詞もまったく違います。(もちろん、民謡は歌うその時々で毎回歌詞が変わるのが通例です。同じ歌手でも何年の吹込みなのかによって、歌詞が違うのは当たり前。)

たとえば「黒田節」も、ソノシート版では上の写真のような歌詞(画像をクリックすると拡大します)。これを三人の子どもが異様に上手な節回しで歌うのです。・・・ちょっと妖しい魅力もありますね。ビクター少年民謡会、まったくあなどれません。もっと深く知りたい!


そんなビクター少年民謡会の音源をこの夏、当財団から復刻しました。6/22発売『みんなあつまれ! キッズ盆踊り&音頭』(VZCH-82)。全国の幼稚園で子どもたちに、子どもたちの声で、民謡を一緒に歌って踊ってもらいたい、ということで、こんなふうなジャケットです。ブックレットには歌詞の他、わかりやすい振付解説が掲載されています。

このところの酷暑のなか、通勤通学のBGMのお供にも最適。これを聴けば、朝からしゃきっと目覚められます!(こちらHMVのサイトで各トラックが視聴できます→

この『キッズ盆踊り&音頭』にはビクター少年民謡会が歌う四国民謡「金比羅船々(こんぴらふねふね)」が入っていますが、私が好きなのはこれとは別ヴァージョンで、伴奏にビクター・オーケストラと三味線:静子、豊藤、鼓:望月長佐久という和楽器が入った音源のほうです。こちらは『決定版 日本の民謡 9 近畿・中国・四国』(CD /カセット・アルバム )、シングル・カセット『ビクター民謡舞踊〈初級〉(金比羅船々/鹿児島小原節)』)などに収録されています。Youtubeで紹介されているのと同じ音源ですが(→ )、こうしたスクラッチノイズの一切ない綺麗な音質でお聴きいただけます。

    


ところで、ソノシートといえば、ソノシート付きの“音の雑誌”朝日ソノラマを忘れることはできません。昭和47年(1972年)4月号から翌昭和48年(1973年)3月号にかけて連載されたのが、小沢昭一さんの案内によって日本各地の民俗芸能を訪ねた企画「新日本風土紀行」(全12回)です。「風土」の文字を抜けば、どこかの放送局がやっていた番組名になるわけですが、このソノシート企画は、そのテレビ番組にまったく引けを取らない内容です。当然、現地録音。そこに小沢昭一さんによる丁寧な解説ナレーションもついて、じつに珍しくも貴重な宝物といえる作品となっています。

当財団でこの音源を調査したところ、残念ながらマスターテープは廃棄されていたことが分かりました。でもその代わりといってはなんですが、幸いにも現在の権利保持者の朝日新聞社小沢昭一さんのところに、ほとんど針を落していない新品同様のソノシートが残っていたことが分かりました。

また、このときの全12回の「新日本風土紀行」シリーズの内、東大寺の「お水取り」の取材音源だけは、まったく別内容の構成で朝日ソノラマからLPレコードが発売されていました。そちらは当財団からCD復刻を行ない、各方面から大変ご好評をいただいております。そして、ぜひ、3月初旬の東大寺・二月堂を訪れて現地での「お水取り」を体験してみてください。

『お水取り 東大寺修二会(実況録音)[語り:小沢昭一]』


(堀内)