9月3日土曜日、東京・三宅坂の国立大劇場で「研箏会創立九十周年記念・初代米川敏子七回忌追福演奏会」がありました。台風12号が四国に上陸した日で、都内も朝から風が強く、時折強い雨の降る天候でしたが、大劇場は大勢の方々でにぎわっていました。追福という言葉はあまり聞きなれませんが、追善と同じ意味で、亡くなった人の冥福を祈り、仏事を営むことだそうです。
現在活躍中の米川敏子さんが家元を務める生田流箏曲の研箏会設立90周年であるとともに、お母さまの初代米川敏子さん(1913ー2005)の七回忌の供養の演奏会ということです。ロビーにはお写真が飾られていました。
邦楽や古典芸能の世界では、このように亡くなった方を偲ぶ追福・追善の演奏会がよく開かれます。クラシック音楽でも、没後○○年記念演奏会などというのをよく耳にしますが、少し意味合いが違うように思います。亡くなった方の冥福を祈る追福・追善演奏会というのは、日本独特のものなのかもしれませんね。
この日は全部で24曲の大演奏会。お弟子さんたちやご縁のあるたくさんの方々が舞台に立ちました。高校の箏曲部や、徳丸吉彦先生をはじめとする学者の方たちの演奏もありました。
第二部の来賓によるプログラムをご紹介します。初代を偲ぶにふさわしい錚々たる顔ぶれの、心のこもった演奏でした。
「松の寿」
箏:米川文清、他 三弦:五月女文紀、他 双調会43名
尺八:川瀬庸輔
「萩の露」
箏:中島靖子 野坂操壽 佐藤親貴
三弦:米川文子 矢崎明子 菊原光治 藤井泰和 米川文清
尺八:青木鈴慕 青木彰時
「道成寺黒髪供養 三部」
唄:上原真佐乃、他 箏:林真佐永、他 真磨琴会16名
「御山獅子」
箏:山勢松韻
三弦:米川文子 米川敏子
尺八:川村順輔
舞踊「河千鳥」
立方:坂東三津五郎
唄:清元志佐雄太夫
三弦:米川敏子 大学敏悠
笛:藤舎推峰 囃子:藤舎千穂
最後の「河千鳥」は古い歌の詞章に当代の米川敏子さんが曲をつけた作品で、自ら三弦を演奏されました。河千鳥は鳥の名前かと思っていたら、そうではなく「すっぽん」のこと! 地歌のなかでも狸や鼠が出てくる滑稽な内容の作物(さくもの)の手法で作曲したもので、清元志佐雄太夫さんの唄にお囃子もついて、古典の味わいがありました。
舞踊音楽として作られたそうで、立方は歌舞伎俳優で日本舞踊の坂東流家元、坂東三津五郎さん。自らの振付で、紋付に袴姿の素踊りでしたが、両手がすっぽんの手(足?)に見えてくるから不思議です。人に食べられてしまう運命のすっぽんをユーモラスに表現しながらも、格調の高さが感じられ、気持ちのいい踊りです。みな息をこらして舞台を見つめ、幕が下りても、しばらく拍手が止みませんでした。
三津五郎さんは11月に新橋演舞場の「吉例顔見世大歌舞伎」にご出演です。そういえばこちらも「七世尾上梅幸十七回忌・二世尾上松禄二十三回忌 追善」。お二人にちなんだ演目の数々で、ぜひ拝見したいと思っています。→吉例顔見世大歌舞伎 | 新橋演舞場 | 歌舞伎美人(かぶきびと)
先代米川敏子さんはたくさんの作曲作品がありますが、当代もそれを受け継いで意欲的に創作活動をされています。「河千鳥」はこの会を締めくくるにふさわしい一曲でした。
初代の演奏はCD「米川敏子の世界 」(2枚組)や「初代 米川敏子名演集」などで聞くことができます。
→じゃぽ音っと作品情報:米川敏子の世界(2枚組) / 米川敏子 →じゃぽ音っと作品情報:初代 米川敏子名演集 / 初代 米川敏子 他
(Y)