じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

シラノ・ド・ベルジュラック

赤い羽根共同募金にご協力お願いします!」この声は毎年10月1日から街頭で耳にする風物詩でもありますね。
この赤い羽根を胸につけている政治家やアナウンサーをテレビで見ることがありますが、ある時、ソフト帽にこの羽根をつけている紳士を見かけて「ああ、panache(パナッシュ)だな」と思いました。panacheとは、西洋の騎士が帽子につけている羽飾りのことですね。三銃士やピーターパンの帽子にもついています。

panacheといえば、エドモン・ロスタン作の英雄喜劇『シラノ・ド・ベルジュラック』の終幕で主人公のシラノが息絶える最後の言葉が「mon panache !」です。直訳すると「私の羽飾り!」になりますが、多くは「私の心意気!」と訳されています。
ジェラール・ドパルデュー主演の1990年の映画や他のリメイク映画(『愛しのロクサーヌ』1987年)で大体の内容を知っていましたが、先月フランスでベルジュラックの街を通ったこともあり、光文社の古典新訳版・渡辺守章氏訳の『シラノ・ド・ベルジュラック』の文庫本を読みました。


文武両道で詩人かつ剣豪のシラノは、大きな鼻がコンプレックスのためにロクサーヌに愛の告白をできずにいる。詩を愛する才女ロクサーヌのほうは、見た目はハンサムだが中身は空っぽのクリスチャンに一目惚れ。クリスチャンもロクサーヌに恋している。さて、自分が容姿のせいで告白できないのなら、いっそのこと愛するロクサーヌがクリスチャンの中身に幻滅しないようにと、恋文を代筆するシラノ。生涯かけて、ロクサーヌのために死の間際までゴーストライターを貫くシラノの恋物語

この五幕の韻文戯曲の詳しい内容については、ウィキペディアにも説明がありますね。シラノ・ド・ベルジュラック_(戯曲)、で検索です。

本を読んで面白かったのは、全編が韻文自由詩の「分かち書き」で書かれているので、歌舞伎の「渡り科白(台詞)」や「割り科白(台詞)」のようになっていることです。

渡辺守章氏の解題に、第二次世界大戦後の日本において新劇による『シラノ』上演について触れられていますが、歌舞伎役者が好んで『シラノ』の舞台を上演してきたようですね。最近では、昨年の秋に市川右近さんが青山円形劇場でシラノを演じて好評を博し、今年の2月にサンシャイン劇場で再演なさっていました。1960年に歌舞伎座でシラノを演じた二世尾上松緑さんのコメントには次のように書かれていました。
「我々が知っている全てのフランス戯曲のなかで、『シラノ』は最も歌舞伎に近い。第1幕などは、どうしても我々には『助六』を思い出させてしまう」

助六panacheは、あの紫色の鉢巻きといったところでしょうか。額の真上でなくて、横に結んでいるのが粋。

「それは、私の心意気!」
見た目じゃない、心なんだよ・・・おっと、助六は見た目にも男前なのでしたね。


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(J)