じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

オペラ・シーズンの開幕〜ヴェルディ:イル・トロヴァトーレ


昨日、新国立劇場で新制作のオペラ、ヴェルディ:『イル・トロヴァトーレ』を観ました。特設サイト(音が出るので注意)→http://www.atre.jp/11trovatore/・・・「アンヴィル・コーラス」としてジャズのビッグバンドのレパートリーにもなっている有名曲がまず流れますね。歌唱も含め、リズムを重視したメリハリのあるテンポを感じる演奏で、私好みでした。イタリア人指揮者ピエトロ・リッツォに今後も注目したく思います。

人間関係は上図のようでわりと複雑・・・「15世紀のスペイン。ルーナ伯爵は、美しい女官レオノーラに思いを寄せているが、彼女は吟遊詩人のマンリーコと相思相愛である。実はマンリーコは幼い頃、ジプシー女アズチェーナに誘拐された伯爵の弟だった。アズチェーナは先代の伯爵に母親を殺された復讐に、伯爵家の次男を誘拐し我が子として育てたのだ。この事実を知らない兄弟の対立は激しくなり、ついにルーナ伯爵はアズチェーナをおとりにマンリーコを捕える。レオノーラは、自分の身体を代償にマンリーコの釈放を伯爵に求め、自らは毒をあおって死ぬ。伯爵はレオノーラの裏切りに激怒し、マンリーコを処刑。アズチェーナは「あれはおまえの弟だ、お母さん、仇は討ったよ」と叫び倒れる。」このページより→http://www.atre.jp/11trovatore/intro/index.html

8、11、14、17日と、あと4回公演があります→イル・トロヴァトーレ|オペラ|新国立劇場
イタリア語の「trovatore(トロヴァトーレ)」は、「吟遊詩人(宮廷詩人)」と訳すことが多いそうです。主人公のマンリーコは貧しいジプシーに育てられた吟遊詩人として登場しますが、実は赤ん坊の時にジプシーの女性に連れ去られた伯爵家の兄弟の弟のほうなのです。これまた、侠客に身をやつした源氏の曾我兄弟の弟である「助六」を連想してしまいますが、こちらの兄弟のほうは双方とも弟の素性を知らないので、伯爵対敵方の武将として、そして恋敵として敵対しています。

ウィキペディアに、以下のように記述されています。

第3幕でのマンリーコのカバレッタ「見よ、恐ろしい炎を」で、テノールは楽譜に書かれていない高音ハイCを挿入することが慣例になっている。通説ではこれはロンドン初演時のテノール、エンリコ・タンベルリックがヴェルディの許可を得て創始したとされており、以来テノールのアリアとして最大の難曲の一つに数えられている。
しかし、このハイCを失敗することはテノールにとっての恥辱とも考えられ、しばしば半音ないしは全音下げて歌いやすくする改変もされている。また、プラシド・ドミンゴのような高域に難点のあるテノール、あるいは指揮者リッカルド・ムーティのように「常に作曲者の書いたままを演奏すべし」という主義をとる場合には、ヴェルディの楽譜通りの演奏もされている。

昨夜の公演では、マンリーコ役のヴァルテル・フラッカーロ氏がインタビューで「半音下げて歌われることもありますが、私は伝統に従って原調でハイCを歌います。実は、楽譜にはハイCは書かれておらずGなのですが、Cに上げるのが慣習で、ヴェルディも認めていたそうです。楽しみにしてください!」とおっしゃっている通り、失敗なしで素晴らしい歌声を楽しめました。

また、兄弟二人が恋するレオノーラ役のタマール・イヴェーリさんの歌うアリア「穏やかな夜」は、1998年ブッセートでの“ヴェルディの声”コンクールで第2位、という経歴に相応しく、魅了されました。
当財団から発売のCDではテバルディの歌うアリア「穏やかな夜」をどうぞ。10曲目です。
じゃぽ音っと作品情報:ノイズレスSPアーカイヴズ 伝説の歌声 2 イタリア アリア集 1 /  (VARIOUS)

今シーズンの新国立劇場オペラパレスでのこけら落としとなった、新制作『イル・トロヴァトーレ』の演出において、冒頭に「死が世界を支配する暗い時代、憎しみと復讐が生を凌駕する時代。」とテロップが流れ、「死」を擬人化した男性が「ワッハッハ!」と大口を開けて笑うところで始まります。擬人化された「死」の男性は、幕開きから大詰めまで終始ステージに居続けます。

「死」をテーマにした舞台の演出にあたったドイツ人のウルリッヒ・ペータース氏のProduction note は以下の文章で締めくくられていました。

「今回、私は、ドイツと日本の友情の証を立てるためにやって参りました。被災地の復興が一日も早まるよう祈りつつ、ご来場の皆様のご期待に応えられるよう全力を尽くしたいと思っています。」(2011年9月)

来日を恐れている海外からの音楽家が多いなかで有り難いことですね。

ヴェルディのオペラ『イル・トロヴァトーレ』の世界は、生きる希望のない、「救いの無い」世界が舞台になっていますが、しかし、それは天災によってではなく、人災によって作り上げられた世界です。
逆説的ですが、「死」があればこそ「生きる希望」もまた存在しえるのではないでしょうか。

(J)