じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

今年の伝統文化ポーラ賞

今年も伝統文化ポーラ賞の贈呈式に行ってきました(10月20日、ANAインターコンチネンタルホテル東京)。

賞を主宰するのはポーラ伝統文化振興財団。「わが国の無形の伝統文化の保存・振興をはかるため、伝統文化の分野で貢献され今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる業績の向上を奨励する」ことを目的としています。
本年度の受賞者はこちらです。→伝統文化ポーラ賞受賞者
当財団の顕彰事業「日本伝統文化振興財団賞」と共通する点がありますが、ポーラ賞のほうはさらに対象が広く、「伝統工芸技術、伝統芸能、民俗芸能・行事の各分野での伝承・振興活動および保存・研究活動」と「上記に設定する無形の文化財の分野で、保存のために欠くことのできない伝統的な技術または技能および保存・研究活動」まで含まれます。今年で31回目になり、これまでの受賞者は259名、受賞者のなかから23名の人間国宝が誕生しているそうです。
今年の受賞者のなかで注目は、「将来に向けて、大きな業績を挙げ貢献することが期待できる比較的若い個人または団体を顕彰する」という奨励賞を受けた人形浄瑠璃文楽の三味線の鶴澤藤蔵さんです。

贈賞理由には次のようにありました。

豊かな天分に加え、稽古にも精進を重ね、正確なツボと技巧、絶妙の間と鋭い切っ先を体得し、大夫の息遣いを汲み取りながら演目に合った人物や状況の弾き分けを工夫して、主張のある三味線の妙音を奏で得るように成長を遂げてきた。(中略)
平成23年4月国立文楽劇場、5月国立劇場の公演において、親子で舞台をつとめる竹本綱大夫と鶴澤清二郎は、それぞれの祖父の名跡を同時に襲名し、父の綱大夫が九代目竹本源大夫、清二郎が二代目鶴澤藤蔵となった。襲名を機に、精進を重ね、今後文楽三味線方として、伝統芸能人形浄瑠璃文楽の発展に益々貢献することが期待されている。

藤蔵さんは、こちらの記事で紹介した国立劇場開場45周年記念「人形浄瑠璃文楽九月公演」にもご出演で、お父さまの源大夫さんの語りで「近頃河原の達引(ちかごろかわらのたてひき)堀川猿廻しの段」の熱演ぶりを伺ったばかりです。とくに、妹が思い人と心中をしに行くと知っていながら、めでたい祝言の猿回しで送り出すという最後のシーン、10分近くもあったでしょうか、三味線をたっぷりと聞かせてくれました。
ポーラ賞の贈呈式では、豊竹呂勢大夫さんと「花競四季寿」から萬歳(まんざい)を演奏されました。藤蔵さんは今年46歳。これからの活躍が本当に楽しみです。
地域賞を受賞した民俗芸能は、映像での紹介がありました。秋田県八郎潟町の一日市(ひといち)郷土芸術研究会と 富山県出町(砺波市の前身)の砺波子供歌舞伎曳山(となみこどもかぶきひきやま)振興会の2団体です。

選考委員の三隅治雄先生の解説つきで、芸能の内容とともに、どちらも江戸時代から続くユニークな芸能であること、戦後、存続の危機を迎えたのを、地元の方々の努力で乗り越えてきたということなどが紹介されました。それぞれ担い手として子供たちの活躍が目立っていました。
大震災の復興に関する報道などを見聞きすると、長く伝えられてきた伝統芸能や行事が、地域の人々の心の拠り所になっているのではないかと感じられることがあります。今年の贈呈式では伝統文化の力について、そんなことが思い起こされました。

(Y)