じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

普遍的な笙(しょう)と竽(う)の「調子」

今日は最近耳にしたCDをご紹介させてください。笙(しょう)・竽(う)の演奏家東野珠実(とうの たまみ)さんのファースト・ソロ作品です。

ryuichi sakamoto presents:sonority of japan Breathing Media/東野珠実」(commmons/エイベックス・マーケティング株式会社:RZCM-46995〜6/2CD)

雅楽でおなじみの楽器、笙(しょう)と笙の同系統で大柄の竽(う)の音を重ね、雅楽における「調子」6曲のフルサイズを収録している。「調子」という言葉には「調子いい/わるい」といった日常的な使い方のほか、楽器の調弦や音階を差すことも。中国やシルクロードの地域といったアジアの広い範囲に源をもち、日本に輸入され育まれた雅楽のなかでは一種の前奏曲としてこの「調子」が用いられてきた。雅楽の六種の調子は壱越調〈いちこつちょう〉、双調〈そうじょう〉、黄鐘調〈おうしきちょう〉、平調〈ひょうじょう〉、盤渉調〈ばんしきちょう〉、太食調〈たいしきちょう〉に分かれている。これらは前奏曲にとどまらず、「すべてのものは木、火、土、金、水の5つの元素によって成り立つ」という五行思想に対応した象徴を担っていて、東野珠実さんがそれぞれをイメージした真摯なまなざしの六つの調子が、まさにいきづいている。だが、聴き手にとってこれほどまで自由な聴き方ができる音は初めて、あるいはもうすでに聴こえていた音なのかもしれない。「そして私には、英語Breathingという能動のなかにも、"Breath"と"Thing"すなわち、"生物"(いきもの)という意味が浮かび上がってみえた」(CDライナーノーツ内、東野さんの文章より)という感覚。普段は意識しないけれど、限りなく広がる天空や地平、手つかずの自然の豊かさや素晴らしさにあらためて気づいたときにすでに流れていただろう音楽を思い起こさせる。さらにいえば地球の真ん中、ひいては宇宙の真ん中に自分自身が立っているかのような、"生物"にとっての普遍的な音楽に聴こえてくる。
たとえ聴いていて眠くなったり、あまり深く考えずに耳にしていたとしても、この作品からは、生きている限り続くその奥底で響いている音楽とは何だろう?という答えのひとつが感じられてくるに違いない。

――と書いてみたくなる素敵な作品でした。

いまクラシック専門のインターネットラジオOTTAVA(オッターヴァ)」で、坂本龍一さん全面協力の特別番組がリピート放送されています。邦楽器をフィーチャーした3枚のCDシリーズ「sonority of japan」についてを3部構成で。シリーズには『Breathing Media』のほか、「箏とオーケストラのための協奏曲」(指揮:佐渡裕、箏:沢井一恵〈※沢井一恵さんのソロ作、参加作はじゃぽ音っとで数多くあります、こちらをご参照ください→〉 兵庫芸術文化センター管弦楽団)を収録した『点と面』映画のサウンドトラック『一命 Harakiri−death of a samurai』があります。
番組の第2部では、雅楽と笙の魅力や作品についてのエピソードを東野さんご自身がお話されていて、番組を通しての坂本さんのコメントとともに興味深く聴きました。詳しくはこちらをチェックしてください
今度の11月5日(土)18:00〜が最後のリピート放送。未聴だった方はこの機会にぜひお聴きください!


東野珠実さんは芝祐靖さんが主宰する伶楽舎の一員でもあります。こちらの2枚は、今年7月に日本伝統文化振興財団から発売されたアルバムで、東野珠実さんは『芝祐靖の音楽 古典雅楽様式による雅楽組曲「呼韓邪單于」―王昭君悲話―』(写真左)では笙を、『芝祐靖の音楽 復元正倉院楽器のための 敦煌琵琶譜による音楽』(写真右)では金属打楽器の律鐘を担当されています。伶楽舎の音楽監督である芝祐靖さんは、先頃、文化功労者に選ばれました。おめでとうございます。

 

(じゃぽ音っと編集部T)