じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

市丸さんの魅力

師走となり、書店には雑誌の新年号が並んでいます。月刊「東京人」の1月号に「市丸の秘蔵写真アルバム」という記事が載っていて、興味深く読みました。
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「芸者から歌姫(ディーバ)へ  チャップリン近衛文麿をも魅了した昭和の人気歌手」とサブタイトルにあります。書いているのは石上申八郎さんという建築家で、お祖父さまもお母さまも長唄演奏家とのこと、邦楽と縁のある方のようです。
市丸さんはビクター専属歌手としてSPレコード時代から多くの録音を残しています。その音源の復刻盤CDを当財団で出していますので、名前はとても馴染みがあるのですが、この記事でどんな方なのか、あらためて知ることができました。
なんとなく江戸っ子のように思っていましたが、地方の生まれだそうで、浅間温泉で芸者になってから志をもって上京し、浅草の芸者として芸を磨いたとのこと。とくに邦楽を愛し、清元は五世延寿太夫、宮薗節は宮薗千寿、小唄は春日とよ、など当時の第一級の師匠について学び、歌だけでなく、三味線もたいへんな腕前だったそうです。
昭和に入ってラジオとレコードの時代が始まり、昭和2年に設立されたビクターが、花柳界から市丸と勝太郎という二人の傑出した才能を見つけ出し、昭和6年に専属契約を結んだのが、全国的に名を馳せることになる始まりでした。「この二人によって日本的伝統音楽が新味をもって生き返った」と石上さんは書いています。
記事には秘蔵の写真が何枚か掲載されていますが、とても品のいい顔立ちです。チャップリン藤田嗣治との珍しい写真や、「自分の技芸を磨き、観客に満足を与えること」に生涯を捧げた市丸さんの数々のエピソードなどは、「東京人」でご覧ください。→「東京人」
当財団の頒布物を検索すると、市丸さんの歌が含まれるCDは36タイトル(→市丸・CD)、カセットテープは70タイトル(→市丸・カセット)もあります。内容も小唄、端唄、流行歌、民謡と多岐にわたっています。意外なところでは、「宮城道雄作品大全集」 (13枚組)のなかに、宮城道雄作曲の映画の主題歌 「すみだ川」が、市丸の歌、宮城道雄のお箏で収録されています。
「おどり用」の小曲集もいくつか出ていて、日本舞踊のお稽古では、この音源が変わらず愛用されているようです。
とはいえ、一般には昭和の後半以降しだいに忘れられつつありましたが、近年動画サイトや中古レコードなどで、一部の若者の間に市丸礼賛が復活しているとか。いいものはいつの時代にも見いだされ、喜ばれるものなのでしょう。
その歌声を聴いたことがないという方には、とりあえずこの一枚をおすすめします。歌の世界で幅広く活躍した市丸さんの魅力の一端を感じていただけることと思います。

じゃぽ音っと作品情報:〈COLEZO!〉〜コレゾ!BEST!〜市丸のすべて /  市丸

(Y)