じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

東日本大震災を乗り越えて


今年も残すところ10日余りとなりました。新聞やテレビで今年を振り返る特集が見受けられるようになりましたが、2011年という年の最大の出来事は、なんといっても3月11日の東日本大震災です。大地震とそれに伴う津波、そして原発事故というこれまで経験したことのない大きな災禍によって、この年はいつまでも記憶されることになるでしょう。
あまりにも失ったものが大きく、その被害と影響ははかりしれません。復旧、復興の道はまだ遠く、年が改まっても引き続き、そのことを考え続けていかなければならないと思っています。
先日、東京文化財研究所が開いている無形民俗文化財研究協議会に行ってきました。今年度のテーマは「震災復興と無形文化―現地からの報告と提言」でした(12月16日(金)、東京国立博物館平成館大講堂)。
案内書には「災害という局面において、民俗芸能や、伝統的生業のための技術、風俗・慣習などといった無形の文化をいかに守り伝えていくことができるのか、また復興のために文化がどういった役割を果たしうるのかについて、共に考えていきたいと思います」とありました。
被災地およびその周辺地域からの報告とともに、「東北学」の提唱者、赤坂憲雄さんをコーディネーターに迎えた討議がありました。赤坂さんは大震災以来、新聞や雑誌等いろいろなところで発言を続けているのでご存じの方も多いでしょう。(松岡正剛「千夜千冊」から→赤坂憲雄「東北学/忘れられた東北
プログラムは次のとおり。午前10時半から午後5時半までの会でしたが、全国から150人を超える参加者がありました。

第一部 被災地からの報告と提言
1.「東日本大震災を乗り越えて—沿岸部の民俗芸能 復興の現状」
 阿部武司(東北文化財映像研究所 所長)
2.「津波と無形文化」 川島秀一(リアス・アーク美術館 副館長)
3.「被災集落と神社祭礼について」 森幸彦(福島県立博物館 専門学芸員南相馬市伊勢大御神 禰宜
4.「後方支援と三陸文化復興プロジェクト」 小笠原晋(遠野文化研究センター 事務局長)
5.「震災と文化復興」 赤坂憲雄学習院大学教授、福島県立博物館 館長)

第二部 総合討議
上記発表者5名とコメンテーター2名による総合討議
〔コメンテーター〕小川 直之(國學院大学教授) 石垣 悟(文化庁伝統文化課調査官)
〔コーディネーター〕赤坂憲雄

被災にあった東北は民俗芸能の宝庫ですが、とくに沿岸部では担い手を亡くしたり、衣裳や楽器などの道具や記録まで流されたところが多く、それを守ってきた場所さえ失われてしまっています。そうでなくても高齢化、過疎化で細々と守り伝えられてきた民俗芸能は壊滅的な被害を受けました。
けれども、絶望的な話ばかりでもありません。残された道具を探し出して補修したり、他の地域からの支援をうけたりして、この9か月間に再開された民俗芸能も多いのです。観光と結びついた大きな祭りの自粛ムードとはうらはらに、地域の思いがある神事や祭り、芸能は、鎮魂の意味も込め、縮小しても行われています。なかには避難所に慰問に出かけたり、首都圏などの支援イベントに出演したりというものもあり、4月下旬頃から各地で少しずつ活動されています。
復興のためには衣食住の確保こそ最初の課題でありますが、暮らしの再建ということを考えると、お祭りや郷土芸能、神事といったものも、そこに住んでいた人たちのアイデンティティの拠り所として欠かせないものであり、再生されるべきであるということが繰り返し強調されていました。
お祭りになると都会に出ていった若者が帰ってきて参加するのと同じように、被災地から離れた場所で避難生活を送っている人たちの心を故郷に結びつけるに足るものが、地元のお祭りや行事にはあるということです。その愛郷心が復興への力になるのですが、そのためには、まだまだ様々な支援が必要です。まったく復興のめどのたっていない郷土芸能もあります。
赤坂さんは大震災復興構想会議のメンバーとして、神社やお祭りの復興を提言したところ、宗教には予算をつけられないと受け入れられなかったそうです。結果として、文化にかかわる政府の復興予算はゼロでした。チェルノブイリの例を出して、「原発事故の後5〜6年経ってから民俗学者が被災地の調査をし、無形文化を掘り起こすことによって新しいアイデンティティを作ることができた。しかし、もっと早くすればよかったと言っている。形なきものが人のアイデンティティを支えているのです」と締めくくっていました。

この会のなかで、社団法人全日本郷土芸能協会の活動が紹介されました。独自に「郷土芸能復興支援プロジェクト〜ふるさとの芸能と祭りの復興・再生に向けて〜」という支援を行っているほか、全郷芸ブログでも被災地無形文化財郷土芸能・祭礼等)助成・復興支援情報などを発信しています。→Re:Discovery Japan 〜 公益社団法人 全日本郷土芸能協会
被災地を思って地道な活動を続けていることに頭が下がります。こちらもぜひご覧ください。

(Y)