じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

幸魂奇魂(さきみたま くしみたま)

もう何年前のことだろうか。大神神社(おおみわじんじゃ)への参詣の機会を、根本幸夫先生(薬学博士、漢方平和堂薬局店主)から頂いた。
日本最古の神社として知られる大神神社は、三輪山のお山そのものがご神体で、神殿はなく拝殿から三輪山を仰ぎ見る。また「古事記」「日本書紀」にもその由来が記されている大神神社には、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が祀られている。
参詣前夜に現地に到着、その晩のうちに、根本先生のご指導を仰ぎながら境内各所の磐座(いわくら)に詣でた。「ほら、手をかざしてご覧」と言われて磐座に手を向けると、掌にほの温かさが感じられた。翌朝早く、境内の狭井神社から履物を脱ぎ、裸足で三輪山への登拝となった。
その参詣の折々に唱える神語が、「幸魂奇魂守給幸給(さきみたま くしみたま まもりたまひ さきはえたまえ)」だった。
この詞は大国主大神(おおくにぬしのみかみ)が伝えられた言葉とされ、神の二つの姿〜荒々しい魂である荒魂(あらみたま)と、恵みをもたらす和魂(にぎみたま)〜から、和魂がさらに幸魂(さきみたま)と奇魂(くしみたま)に分けられている。幸魂は人に幸を与え、収穫をもたらし、奇魂は奇跡によって幸を与えるとされている。
この「幸魂奇魂」をタイトルとするCDアルバムが、本年3月7日、当財団から発売されることとなった。(詳しくは当財団HP内の作品紹介ページをご覧ください→

このアルバムは、横笛奏者の藤舎貴生さんの作曲・プロデュース、オリコンチャート歴代第一位作詞家松本隆さんが「古事記」をテーマに全詞を書き下ろし、市川染五郎さん、若村麻由美さんが朗読を担当、さらに和太鼓の林英哲さん、人間国宝の尺八奏者山本邦山さん、長唄三味線の重鎮今藤政太郎さんなど、伝統芸能界の文字通りトッププレーヤーの出演となっている。

 
また、松本隆さんは次のように述べられている。
古事記をテーマにした歌詞が完成して、その原稿の束を貴生氏に手渡した。その4日後に東日本大震災が起き、続いて発生した原発事故によって、我が国がもっとも大切にしてきた綺麗な自然、空気や水、そして大地がを汚されてしまった。歌詞の中であまりにも生々しく、神々と対面した直後だっただけに、どの神様が怒っているのかわからぬまま、ぼくは京都、出雲、奈良の三輪山へと旅して手を合わせてきた。「幸魂奇魂」という短いフレーズは、日本人がこの国を守り築くために、三輪山の神から教わった聖なる言葉で、今、日本を救う最強の呪文だといえる。(後略)」

先月末、市ヶ谷のホテルでの忘年会の折、お隣にNHKブラタモリで紹介された亀岡八幡宮があることに気付いた。
今、財団が取り組んでいる古典芸能の将来への継承、SPレコードをはじめとする貴重な音源資産のデジタルアーカイブなど、すべてが縦割り世界の中で資金はいつも足らず、前途は本当に多難だ。
これは、ちょっと立ち寄って、お願いしてこないと、と思って、見上げる階段を上って境内にたどり着くと、

本殿の手前には、大祓(おおはらえ)の「茅の輪潜り(ちのわくぐり)」が造られ、

本殿の入り口には、ここにも「幸魂奇魂」の神詞が!


お詣りをして、転がり落ちそうな急階段を下りて帰路についた。


お賽銭箱には、もう一つ、人形(ひとがた)の入った大祓(おおはらえ)形代も置かれていた。


古来、曰く「人事を尽くして天命を待つ」。
つまり、本当に出来る限りのことをすべてしなければ、と改めて心に誓ったのでありました。

(理事長 藤本)