じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

こいつぁ春から縁起がいいわえ

昨日が旧正月春節)だったようですね。東京でも雪が降って、そして積もって、今日は五度くらいまでしか気温が上がらなかったという、寒い一日となりました。

http://www.ntj.jac.go.jp/45th/kabuki_01/index.html
国立劇場では開場45周年記念公演の一部として「歌舞伎を彩る作者たち」と銘打ち、近松門左衛門河竹黙阿弥鶴屋南北ほか、歌舞伎の代表的作者たちの傑作の上演を昨年10月からスタートしています。このシリーズ、昨年は11月の近松門左衛門「日本振袖始」(にほんふりそではじめ)と「曽根崎心中」(そねざきしんじゅう)を観ました。
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2011/1116.html
http://www.ntj.jac.go.jp/45th/index.html
「日本振袖始」のほうは出雲の八岐大蛇(やまたのおろち)退治のお話。通りすがりの素戔嗚尊(すさのおのみこと)が発熱した稲田姫を見かけ、着物の振り袖を刀で切り開いて風を通し涼を与えるのが序盤のエピソード。現実に通りすがりの男が女性の振り袖を切ってしまったら感謝されるどころか怒られそうですがね…。後半では八岐大蛇が登場しますが、以前のブログでもご紹介した鱗文様の衣装を身につけています。
あのジャージは鱗文様? - じゃぽブログ
ご存知「曽根崎心中」のほうは坂田藤十郎さんがお初を演じていらっしゃいました。藤十郎さんは昨年12月で傘寿だそうです!上演1300回を超えてなお、21歳の初演時と変わらぬ初々しいお心で舞台に立たれている、というインタビュー記事を読みました。
そして今日はシリーズ第四弾にあたる河竹黙阿弥の作品。平成24年初春歌舞伎公演に行って参りました。演目は「通し狂言 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」「奴凧廓春風(やっこだこさとのはるかぜ)」です。
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2011/758.html
同劇場のフライヤーによると、「幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎作者〈河竹黙阿弥 かわたけもくあみ〉は、時代物・世話物・舞踊を問わず幅広いジャンルで多くの名作を生み、約三百六十篇を残しました。その作品群は歌舞伎の作劇法の集大成とも言われ、坪内逍遥(つぼうちしょうよう)は彼を<江戸演劇の大問屋>と賞賛しました…」と紹介されています。

河竹黙阿弥の作風については「三人吉三巴白浪」にも触れて以下のようにWikipediaに記述があります。

黙阿弥の作品の特徴としてまず第一にあげられるのが、俗に「黙阿弥調」とも呼ばれる華美な科白にある。たとえば『三人吉三』の序幕「大川端庚申塚の場」の「厄払い」と呼ばれるお嬢吉三の独白は、「月も朧(おぼろ)に白魚の、篝も霞む春の空……」と朗々と唄い上げる極めて洗練されたもので、しかも類語や掛詞を駆使した七五調の句が観客を魅了する。〆句の「こいつぁ春から縁起がいいわえ」とは、実は通りすがりの夜鷹を大川に突き落として金を奪ってみたところなんと百両もあったという、とんでもない幸運を素直に喜ぶ盗賊の浮かれ具合が言い表されているのだが、ここで強盗傷害犯の悪逆さを観客に微塵も感じさせないのが黙阿弥の真骨頂である。

このお話、テーマは何か?と聞かれたら、ズバリ因果応報とでも言いましょうか…? 3人の同じ「吉三(きちさ)」と名乗る盗賊のうち、和尚吉三(おしょうきちさ)の父である土左衛門伝吉(どざえもんでんきち)は後年改心するものの盗賊時代に犯した悪事がおおもとで結局は命を落とすことになります。「悪いことはできねぇ…」。終幕の「火の見櫓」の場の雪の中の立廻りは色彩も演技も鮮やかで非常に美しかったです。浄瑠璃『初櫓噂高嶋』の清元連中・竹本連中の掛け合いのような演奏も見事でした。

もう一つの演目「奴凧廓春風(やっこだこさとのはるかぜ)」でも竹本連中・常磐津連中・長唄連中の演奏が際立ちました。こちらは正月の風物でもある奴凧(やっこだこ)を『曾我物語(そがものがたり)』の世界と結びつけたエピソード。『曾我物語』で源頼朝が富士の裾野で巻狩りを行い、猪を射る逸話が取り入れられていました。今回は、奴凧を勤める市川染五郎さんが全段の振付を新たに考案されたとのこと。

舞台途中では初春公演らしく役者からの手拭い撒きがありました。私はゲットできませんでしたが・・・。「通し狂言 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」「奴凧廓春風(やっこだこさとのはるかぜ)」は27日金曜日が最終公演です。

(J)