じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

古事記1300年記念の年に

古事記」が712(和銅5)年に成立してから今年でちょうど1300年、その神話の世界を題材にした人形浄瑠璃文楽「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」を観てきました(国立劇場2月文楽公演〈第3部〉2012年2月4日〜2012年2月20日)。

近松門左衛門の原作で初演は1718(享保3)年。1883(明治16)年を最後に文楽の本興行での上演は絶えていたそうですが、2010(平成22)年7月に文楽三味線の人間国宝鶴澤清治さんが「大蛇(おろち)退治の段」を補綴・補曲して、大阪の国立文楽劇場で127年ぶりの復活公演が実現しました。東京では今度が初演ということで、楽しみに伺いました。
文楽ではいつもそうなのですが、人形はもちろん、大夫や三味線の演奏も気になるので、どちらに目を向けようか迷ってしまいます。最近は舞台脇に字幕が出るので、それも見たくなります。
「日本振袖始」は大夫が4人、三味線が清治さんをはじめ5挺、ずらりと並んで壮観。まずはこちらに注目しました。演奏もたいへんな迫力でした。珍しかったのは八雲琴(二弦琴)が2面出ていたことです。三味線の2人が途中で演奏していました。少し甲高い独特の響きで、神さびた雰囲気が出ているように思いました。胡弓が入る部分もあり、三味線から持ち替えた豊澤龍爾さんが、狭いなか上手に弓を操っていました。また、文楽ではふつうお囃子は客席から見えない下座(げざ)で演奏されますが、鼓の方が舞台面に登場していたのも新鮮でした。
物語の主人公は素戔嗚尊(すさのおのみこと)と稲田姫(いなだひめ)と思っていたら、この場面では八岐大蛇(やまたのおろち)の化身、岩長姫が大活躍でした(チラシの写真)。大蛇退治のために用意された8つのお酒の瓶に次々と頭をつっこむお姫様の姿は壮絶ですが、実においしそうに飲み干します。そしてふと我にかえったのでしょうか、一人で踊る姿の美しさ。やがて毒酒が効いておそろしい本性を現すのですが・・・。
この岩長姫の踊りは東京公演にあたり、日本舞踊家の尾上墨雪(おのえぼくせつ)さんが新たに振り付けをしたのだそうです。人形に振り付けをするというのも珍しいことと思いますが、桐竹勘十郎さんの遣う岩長姫は、まるで本物の舞踊家が踊っているようによどみなく、そして品のいい動きで、今度は人形から目が離せなくなりました。
この日伺った第3部の公演は、この前に「菅原伝授手習鑑」の「寺入りの段」と「寺子屋の段」の上演がありました。歌舞伎でも文楽でも何度観てもあきることのない古典「寺子屋」と、新演出の「大蛇退治の段」。対照的な2演目を存分に楽しむことができた一夜でした。
ところで、なんで大蛇退治の物語が「振袖始」なの?と思われた方は、こちらのブログに歌舞伎「日本振袖始」に関連して、「振袖はじめて物語」の解説がありますのでご覧ください。→こいつぁ春から縁起がいいわえ - じゃぽブログ
今年は古事記編纂1300年にちなんで、各地でさまざまなイベントが企画されているようです。当財団では「古事記」に題材をとったCDアルバム「幸魂奇魂(さきみたま くしみたま)」を3月7日(水)にリリースします。

作詞家の松本隆さんが「古事記」をテーマに書き下ろした作品に、横笛奏者の藤舎貴生さんが作曲、プロデュースしたアルバムです。市川染五郎さん、若村麻由美さんの朗読入りで、和太鼓の林英哲さん、人間国宝の尺八奏者山本邦山さん、長唄三味線の重鎮今藤政太郎さんなど伝統芸能のトッププレーヤーの皆さんの出演となっています。→幸魂奇魂(さきみたま くしみたま) - じゃぽブログ
こちらの「古事記」も素晴らしい音楽物語です。どうぞお楽しみに。

(Y)