じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

武満、シューマン、ブラームス

一昨日、2月18日(土)は サントリーホール東京都交響楽団プロムナードコンサートNo.347を鑑賞してまいりました。

(以下『月刊都響』2012年2月号より引用あり)
曲目はこの3曲。

武満 徹: ハウ・スロー・ザ・ウィンド
シューマン: ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
ブラームス: 交響曲第3番 ヘ長調 作品90

指揮のイラン・ヴォルコフ氏は1976年イスラエル生まれ。19歳で指揮者としてのキャリアを開始され、ボストン響アシスタント・コンダクターなどを務めた後、2003年にBBCスコティッシュ響主席指揮者、2009年より同響主席客演指揮者となられ、2011/12シーズンよりはアイスランド音楽監督および主席指揮者に就任されています。レコーディングの評価も高いそうで、数多くリリースされているCDのなかでも『ブリテン:ピアノと管弦楽のための作品全集』(Hyperion)はグラモフォン賞を受賞されているそうです。
同氏の指揮する都響の演奏は小気味良くまとまっていて日本人好みの演奏かもしれないと思いました。

1曲目の武満 徹: ハウ・スロー・ザ・ウィンド は、武満 徹(1930〜96)後期の作品。題はアメリカの女性詩人エミリー・ディキンソン(1830〜86)の書いた短詩からとられています。

How slow the wind
How slow the sea
How late their Feathers be!

   風はなんと遅いことか
   海はなんと遅いことか
   それらの羽はなんとゆっくりしたことか!

まさに自然における大気のゆっくりとした空気の流れというか深海のゆるやかな海流というか、そういったものを目の前で体験しているかのような曲ですね。音楽は聴くものなのですが、ちょっと「視覚的」な感じもしました。おかしな表現かもしれませんが。。。個人的には、イギリスのロマン主義の画家ターナー(1775〜1851)の風景画を観ているような感覚なのです。ターナーの絵は肉眼では見えないはずの大気自体の流れなどを、風景を目の前にした人間が、心で感じて見ているかのように、具象化して絵筆で描いています。

2曲目のシューマン: ピアノ協奏曲 イ短調 作品54は、昨年のこのブログで何回か取り上げましたとおり、溺愛している作品です。
シューマン「ピアノ協奏曲」オススメ度CのCD - じゃぽブログ
生演奏はまた格別です。ピアノの清水和音氏の演奏は1音1音がくっきりと彩りのある音の粒になっているようで、特に高域が美しく響いてきました。同氏は一昨年の2011年8月には、デビュー30周年を記念してラフマニノフのピアノ協奏曲第1〜4番と《パガニーニの主題による狂詩曲》の全5曲を一度に演奏するという快挙を成し遂げられたとのことです。
この日のコンサートの曲目解説も掲載されている小冊子『月刊都響』には小宮正安氏の『クラシック名脇役伝』の連載があり、第9回の今回はフリードリッヒ・ヴィーク(1785〜1873)がフィーチャーされていました。この人はクララ・シューマン(1819〜1896)の父上です。ヴィークはピアノの家庭教師を営んでいましたが、最初の生徒であったマリアンネ・トロムリッツ(1797〜1872)と結婚して4人の子供をもうけ、このうちの次女がクララなのです。ヴィークはクララを「天才ピアニスト」として売り出し、幼い頃のモーツァルトの父のようにヨーロッパ各地の演奏旅行に連れて回ったのですが、クララの活動が消滅することによって生じる経済的な損失を理由にロベルト・シューマン(1810〜1856)との結婚に猛反対をして、訴訟問題にまで発展したそうです。結局は二人は結婚したわけですが・・・

さて、3曲目、ブラームス: 交響曲第3番 ヘ長調 作品90。
この日のコンサートの中で、一番良い演奏だったと思います。ブラームスについてはまたそのうちに。

(J)