じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

九十歳の御山獅子

古屋富蔵先生が主宰する鳳友会の創立70周年記念箏曲演奏会に行ってきました(4月15日(日)有楽町・朝日ホール)。
古屋先生が昭和17年(1942年)に設立した鳳友会は今年で70周年ですが、同時に先生は90歳で卒寿、奥さまの古屋靖枝先生は80歳で傘寿を迎えられるというたいへんおめでたい記念の会です。
学生時代、それまで経験したことのない楽器を弾いてみたいとお箏のサークルに入ったのですが、当時講師でいらしていたのが古屋先生で、お箏の手ほどきを受けました。今から思うと、学生たちのわがままによくつきあってくださっていたと思いますが、お稽古のときは学生だからと手加減することはなく、きびしい指導でした。いつも背筋がぴんと伸びて、おだやかながら的確な言葉でていねいに教えてくださり、ときに模範演奏をされた姿は忘れられません。
「六段の調」を習ったときのことです。段が進むにつれてだんだんのって速くするように、と教えられたのには驚きました。それまで習っていたピアノでは、曲の途中で勝手に速くなってはいけない、といつも注意されていたからです。古屋先生は「ずっと同じ速さだと退屈でしょ」と言われ、目からウロコでした。思えば、日本音楽の面白さに目覚めたのはこのときだったのかもしれません。

今日の会で、先生は「御山獅子(みやまじし)」のお箏を演奏されました。昔のお姿のとおり、奥さまの三弦と息の合った端正な演奏で、本当になつかしく伺いました。尺八の助演は、鳳友会と深いご縁があるという善養寺惠介さんでした。サークルのOBOGも20人近く聴きに来ていて、演奏後の先生と舞台裏でいっしょにお話することできました。
プログラムの巻頭で、先生は「音楽学校では宮城道雄先生に箏、三絃を習っていましたが、先生から吸収したものは私にとって一生を通じて、他に掛替えのない自分の宝となっていることをつくづくと感じます」と書いています。私は不肖の弟子でしたが、その片鱗に接することができたのを幸せに思います。
そして「私もだいぶ高齢になりこの辺で新しい風を入れる必要を感じ引退することにしました」とのこと。今後は会長を平野裕子さんに譲り、会の実務は養女の結花こ(ゆかこ)さんに任せるそうです。
「私は90歳になりましたが、お陰さまでまだ体には幾分かの余力があるように思いますので、これからは2人の相談にのったり、体調に合わせて程々にお稽古を手伝ったり、自分の自由時間を楽しみたいと思っております」ということです。今後もますますお元気で、後に続く若い人たちを見守っていてほしいと願っています。

(Y)