じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

八木節あれこれ

昨晩はなんとなく八木節が聴きたくなり、古い民謡のレコードをあれこれ取り出して聴いていました。日本の民謡のなかでもとびきりエネルギッシュな魅力で親しまれている八木節。そもそもは足利市にあった八木宿の堀込源太という人が歌っていた源太節というものが起源で、この方が大正時代の終わり頃にレコードに吹き込んだ時、「八木節」という名前が付いたとのこと。その後は群馬県桐生でも八木節が広く継承されて今に至ります。八木節が誕生してから、まだ百年も経っていないのですね。じつは、有名な民謡でも意外とここ百年位の間に作られたものも沢山あって……というような話はまた別の機会に。。。

八木節に話を戻すと、最初にSPレコードに吹き込まれたという初代堀込源太の録音を聴いたことがなく、ふと思い立ってYoutubeで検索すると、なんと、ありました。聴いてみると唄の部分と間奏の囃子の部分で調が違っているのですが、でも、これは、日本の音楽では全くアリ。もっと言えば、風流(ふりゅう)踊りや神楽などを観ているときに、ときどき唄と伴奏の笛が全然違う調で演奏している場合があります(いわば歌と伴奏が全くハモらない)。これも、西洋音楽の耳では「オンチ」とか「調子が外れている」となるわけですが、でも、日本の耳はこうした演奏のかたち、音の重なり方を排除しません。なぜか。ようするに、日本の音楽は、メロディ・リズム・ハーモニーという西洋音楽を構成する三要素とは(外見上は似ていても)別の回路に基づいて成立しているからです。そしてわたしたちが日本語を話している限り、どんなに西洋音楽が巷に満ち溢れても、こうした日本の音を背後で支える回路や判断のスイッチを潜在的に持っているはずだと思います。あとはキッカケさえあれば、誰でも自分なりの日本の音楽の楽しみ方を再発見できるはず。

<八木節 継子三次 (一)(堀込源太)80rpm> 大正期発売年不明 八木節音頭 ニッポノホン


そしてこちらは、現在の八木節の“模範演奏”。大正時代のフシ回しとの違いが面白い。<YAGIBUSHI 八木節模範演奏サンプル- 八木節教則本CDより by いとろ和楽器店>


この八木節の生命感溢れる迫力を使って外山雄三さんが作曲した「管弦楽のためのラプソディ」。実演で何度か聴いたことがあります。打楽器の迫力が凄い! またこの曲は日本のオーケストラが海外公演をするときのアンコール曲としても定着していて、毎回聴衆に信じられない程の熱狂を引き起こす曲でもあります。それは、端的に言うと、この曲はオーケストラで演奏するぐらいなので一見すると西洋音楽の言葉をしゃべっているように思われますが、しかしじつはこの作品の本質が西洋音楽とはまったく異質な音楽の“要素”を源泉としていることを、海外の聴衆は敏感に感じ取って、その魅力にマイってしまうがゆえの“熱狂”なのだと思います。しかし当然そこには外山さんの作曲の絶妙な魔術も潜んでいます。


最後に、わたしが愛聴しているジャズ・ピアニスト山中千尋さんの弾く「八木節」。最初に聴いたのは澤野工房からリリースされた山中さんのセカンド・アルバムに入っていたヴァージョン。ご出身が桐生ということで、八木節はまさに山中さんにとって“ふるさとの民謡”。その後は、以下の動画にあるようにライヴでのアンコールの定番となっています。これは東京でのライヴ映像。
山中千尋 - YAGIBUSHI (LIVE IN TOKYO) >


ところで、山中千尋さんはその独特なブログでも大変に有名。→ ろひちかなまや
まず最初に“本名は「よしお!」”と書いてあるところからして、なにやら不穏な雰囲気ですが、内容も負けず劣らず……。

以前、山中さんがブログを引っ越しされたとき、更新の操作が難しかったらしく、一瞬だけ移転したときの痕跡がまだ残っているのを発見 →

そこに書かれている投稿の内容も、これまたじつになんとも言えない雰囲気で…… 音楽と同様、その解放された感性に魅了されます!

(堀内)