じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

野坂操壽・沢井一恵デュオTV出演

今週7月6日(金)午後22:16〜22:58 NHK教育『芸能百花繚乱』は、「未来へつなぐ箏のデュエット」と題して、野坂操壽さんと沢井一恵さんのデュオが登場します。お二人は昨年から“[箏]ふたりのマエストロ「変絃自在」”と題した全国ツアーを継続中。この企画からは、前田智子作曲『青蓮華(しょうれんげ)』と荒井美帆作曲『ぼう─六条御息所によせて』という二十五絃箏と十七絃のための二作が新たに誕生しています()。

今回の番組で演奏されるのは、野坂操壽さんの箏と沢井一恵さんの十七絃宮城道雄作曲『瀬音』と沢井忠夫作曲『百花譜』。野坂さんの二十五絃箏の独奏で伊福部昭作曲『琵琶行』。そして沢井一恵さんの十七絃独奏で、ロビン・ウィリアムソン Robin Williamson 作曲『ア・レター・フロム・ア・ストレンジャーズ・チャイルドフッド(A Letter from A Stranger's Childhood)』が演奏されます。番組のなかでは、この曲が生まれた経緯についても語られるそうです。(沢井一恵さんは、この曲に『遠い異国からの手紙』という邦題をつけています)

この曲が収録された沢井一恵さんの伝説的名盤『目と目』は、一昨年にオリジナル・マスターテープからリマスタリングを行って当財団から復刻しています。本作をプロデュースしたのは、Ayuoさん(作曲家・ピアニストの高橋悠治さんのご子息で当時は高橋鮎生と表記されていました)。ロビン・ウィリアムソンに十七絃のための曲を書いてもらおうというアイディアは、プロデューサーのAyuoさんによるものだったそうです。

ロビン・ウィリアムソンは、1960年代中後半から1974年まで、英国・スコットランド出身のアシッド・フォーク・バンド「インクレディブル・ストリング・バンド(Incredible String Band)」で活躍した伝説のミュージシャンです。サイケデリック・ミュージックやエスニック・ミュージックの要素をふんだんに取り入れ、「自然崇拝・共同体意識・神秘主義といったヒッピー文化の根底にあるユートピア思想」に彩られた音楽を展開。Ayuoさんは子供の頃から、「インクレディブル・ストリング・バンド」を愛聴していました。

 

ロビン・ウィリアムソンやAyuoさんは、現代の吟遊詩人と言ったらよいのか、商業的な音楽とは別の、世界各地の民俗音楽文化の基底に流れる「うた」の源流に鋭敏に感応して、新しい響きを紡ぎ出す活動を続けている音楽家です。それは、過去から伝えられてきた「かたち」をそのまま受け継ぐ活動ではありませんが、真の意味で伝統に則った創造活動を続けている稀有な存在だと言えます。

こうした音楽家たちとの協同作業から生まれた作品『ア・レター・フロム・ア・ストレンジャーズ・チャイルドフッド(A Letter from A Stranger's Childhood)』は、わたしは何度聴いても、心の奥深くから強く揺さぶられてしまいます。箏という伝統楽器と向き合いつつ、近世以前の遙か古代の箏の響きまでも思い描いてやまない沢井一恵さんの無限の想像力と創造力によって、洋の東西を超えて“弦”の本質の鼓動に触れているとしか思えないこの素晴らしい曲に命が吹き込まれている・・・。まさに沢井一恵さんだからこそ成し得たケミストリー(化学反応)ではないでしょうか。

番組をご覧になる前に、こちらのページで「ア・レター・フロム・ア・ストレンジャーズ・チャイルドフッド」をごく一部ですが試聴できます。→ 『目と目/沢井一恵』(VZCG-735)。太田裕美さんや、ピーター・ハミルがヴォーカルを担当した曲も素晴らしいです。

当ブログ関連過去記事
「沢井一恵 箏=KOTO 360°」


ロビン・ウィリアムソンは、2000年代になってECMレーベルで素晴らしいクオリティのアルバムを三作リリースしています。『The Seed-At-Zero』(ECM 1732)、『Skirting the River Road』(ECM 1785)、『The Iron Stone』(ECM 1969)。

  


ECM catalog』(河出書房新社)に掲載されている、上記 ECM 1732 の岡島豊樹さんの作品解説は以下。ロビン・ウィリアムソンが現在到達している素晴らしい音楽もお薦めです。

60年代に出現しボブ・ディランジョン・レノン他無数のソングライターを刺激したIncredible String Bandのロビン・ウィリアムソンである。ラーガ、ブルース、アフリカ音楽他、多種の音楽を折衷し、ケルトの音までも幻聴させる ISB はサイケデリック・フォーク、フリーク・フォークと形容され、トップチャートにも上った。ソロ活動をする今、詩・曲ともアウトサイダー的趣が強い。このアルバムは、20世紀の代表的な幻想詩人ディラン・トーマスへ捧げた弾き語り集である。独特の語り、歌、メリスマ的装飾により無限的世界を描き出している。(岡島豊樹)


こちらがAyuoさんのホームページです。今月7月14日には、ハワイ神話に基づく作品『太平洋の神話世界』が明治大学駿河台キャンパス アカデミーコモン3階アカデミーホールで上演されます。入場無料とのことなので、お時間のある方はぜひ。(AyuoさんのLive Schedule→

「この人間ロヒアウと女神ヒイアカとの愛は『ロミオとジュリエット』や『トリスタンとイゾルデ』を思い出させるところがある。その為、ワグナーのオペラ『トリスタンイゾルデ』のアレンジも含め、実験音楽や現代音楽の要素、そしてケルト・ハープやコルナミューズ等の中世時代からの楽器を使った中世音楽やトラッドの要素が入っている新らしい音楽、言葉の朗読とダンスとなりました。」

(堀内)