じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

畑中良輔先生

バリトン歌手で、音楽評論家としても活躍された畑中良輔(はたなかりょうすけ)先生が、5月24日ご逝去されました。享年90歳。作曲や評論などの活動の他に、日本の歌曲、オペラ発展に力を注がれ、合唱団で指揮を務めるなど、音楽の普及活動に多大な貢献をされました。
「先生との思い出」というお話でしたら私などではなく、たくさんの方々が多くのお話をされると思います。私がCD解説書の原稿のお願いするために、先生と初めてお話をしたのは2007年頃でしたので、本当に最近です。先生はとてもお忙しかったと思うのですが、私の名前も憶えてくださり、気さくにお話して下さったり、時には「そちらに歌沢(うたざわ)に関する資料はある?」とご質問をいただいたりしました。「歌沢」は三味線音楽の一種ですので、先生の音楽の幅広さに敬服いたしました。
畑中良輔先生に関係する、弊財団から出ているCDを何枚かご紹介させていただきます。
『日本合唱曲全集 雨/多田武彦 作品集』では、男声合唱組曲「雪明りの路」、男声合唱組曲草野心平の詩から」で、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団を指揮されています。

同じく『日本合唱曲全集 幼年連祷/新実徳英 作品集 1』に収録されている、男声合唱とピアノのための「祈りの虹」で、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団を指揮されています。

『SP音源復刻盤 信時潔作品集成(6枚組)』(2008年発売)には、巻頭の言葉を寄稿くださいました。

信時潔の肖像―私的信時潔小論―』と題された文の一部をご紹介します。「…木下先生の棒のもとで歌っている最中、客席の入口からぬうっと現れた一人の大男。のそのそと木下先生の方に近づいた。木下先生は指揮台から降り、『あっ、先生今日お見えでしたか。じゃ初めから聴いていただいて、あとでご注意を』と挨拶された。私達は『あれが作曲の信時先生?』と声をひそめて囁き合った。…」
また『ノイズレスSPアーカイヴズ 鉾をおさめて/藤原義江〈日本歌曲編〉(2枚組)』(2009年発売)にも寄稿いただきました。

『藤原先生の事など』より冒頭部分をご紹介いたします。「私が生まれて初めて、『音楽会』なるものに行ったのが、小学生の4年の時だった。九州北端の港町、門司の青年館で開かれた《藤原義江独唱会》である。父が会社から券を貰って来た。「お前はまだ小さいから、ようわからんかもしれんが、行ってみるか」と云われて、音楽は大好きな私のこと、大よろこびで青年館に出かけた。門司にはコンサート・ホールなどというものはなく、五百人くらい入るYMCAの講堂である。…」
このCDには、「捨てた葱」(野口雨情作詞/山田耕筰作曲)という曲が収録されていますが、畑中先生から、良い曲なので是非収録をとアドバイスをいただき、収録させていただいた曲です。
そして『木下保の藝術〜信時潔、團伊玖磨 歌曲集〜』(2011年発売)でも、木下保先生の事を語っていただきました。

畑中先生から頂戴した原稿を読んでいると、その当時の事が目に浮かぶようで、信時潔先生や藤原義江さんも、とても身近に感じられました。明日7月7日に「お別れの会」が行われるとのことです。先生のご冥福をお祈り申し上げます。

(制作担当:うなぎ)