じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

神保町のお地蔵さん

暑い日が続きますね。高温注意報が連日出ていますが、お元気でおすごしでしょうか?
神保町に事務所がひっこしてきてほぼ1年半になります。この町の便利さ居心地の良さにすっかり慣れましたが、お城(皇居)に近いこともあって、歴史を感じさせる場所などいまだに興味深い発見もあります。

お昼に出かけるときによく通る道にお地蔵さんがいらっしゃいます。音楽の教科書などを出している会社、教育出版の一角にくいこむように小さなお堂があります。
ときどき立ち止まって手を合わせる人がいたり、お花がいつも供えられていることから、地域で大事にされてきたお地蔵さんなのだろうと思っていました。

「愛全地蔵尊」という標柱があり、なにやら由来のようなものを書いた木の額が掲げられていますが、年を経てかなり読みにくくなっています。それで、あるときインターネットで検索してみました。すると、明治43年、この辺りに東洋幼稚園と東洋家政女学校を設立した教育者、岸辺福雄氏がまつったものだとわかりました。
その後大正12年関東大震災でこわれたいくつかのお地蔵さんを継ぎあわせたのが、いまのお姿だとか。お堂は昭和34年に建てられたそうです。大震災や戦争などで亡くなった方々をまつり、当初女学校で毎年催されていた祭礼は、いまも地域の人々に受け継がれているそうです。
岸辺福雄のお名前を見て、どこかで聞いたような・・・と思ったら、音楽学者の故・岸辺成雄(しげお)先生(1912〜2005)のお父さまであることに気がつきました。岸辺成雄先生は中国の唐代の音楽の研究で知られ、民族音楽学、比較音楽学の日本における先駆者でもあります。夫人は山田流箏曲家の二代藤井千代賀さんです。
岸辺先生の卒寿のお祝いを記念する業績目録作成のお手伝いをしたことがあったため、そのことを思い出しました。とても仲のいいご夫妻でしたが、2005年1月に岸辺先生が亡くなり、同じ年の5月、奥さまがあとを追うように亡くなりました。


昨日7月28日、岸辺成雄先生の生誕百年記念と二代藤井千代賀さんの七回忌追善を兼ねた箏曲演奏会が、夫妻の次女の三代藤井千代賀さんを会主に国立小劇場で開かれました。入口の正面には、お二人の金婚式のときの記念写真とともに、それぞれ受章した勲章や岸辺先生の著書が展示されていました。
12時から夜8時頃まで全26曲の大演奏会で、お弟子さんやゆかりの人など約100名が出演していました。米川文子、富山清琴、山勢松韻、山彦千子の人間国宝の各師や、中島靖子、菊原光治の両師などの特別出演もありました。ご夫妻のひ孫にあたる2歳半の秀クンも舞台で元気に歌っていました。
プログラムには、山田流箏曲家の山勢松韻さん、生田流箏曲正派家元の中島靖子さん、国立歴史民俗博物館名誉教授の小島美子さんが寄稿しています。岸辺先生の研究や二代藤井千代賀さんの演奏、とくにその美声について敬意を示すとともに、お二人のお人柄や温かい家庭についても言及して、それぞれに偲んでいました。今度お地蔵さんの前を通ったら、手を合わせてご報告しようかと思っています。

(Y)