じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

坂東三津五郎の日本舞踊

ここ数年、邦楽・舞踊ファンにとっては楽しみの的となっている“芸の真髄シリーズ”。今年は、十代目坂東三津五郎さんによる日本舞踊に焦点を当てたプログラム坂東三津五郎 江戸ゆかりの家の芸」が、8月22日(水)国立劇場大劇場で開催されました(→ )。チケットは早々に完売。満員の客席を存分に酔わせてくれた最高の舞台となりました。

坂東流坂東三津五郎さんの踊りの魅力を堪能できる見事な演目構成。「喜撰」での尾上菊之助さんには目が釘付けに。いやぁ、坂東三津五郎さんの踊り、素晴らしい。本当に今日は凄いものを見たと思います。やはり本物、超一流のものを見ると違いますね。色々なものが見えてきますし、分かってきます。郡司正勝さんの『おどりの美学』を読むのもお勧めですが(松岡正剛さんの「千夜千冊」より→ 郡司正勝『おどりの美学』)、やはり、よい舞台に接することが一番の近道かもしれせまん。

 


本シリーズの主催者としては、NHKエンタープライズと並んで、こちらも邦楽ファンには見逃せない存在となっている「東京発・伝統WA感動」を主催している、東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京発・伝統WA感動実行委員会も名を連ねています。今年の「東京発・伝統WA感動」では、今日の国立劇場での公演に焦点を合わせ、もっと多くの方に日本舞踊の世界を知ってもらおうと、7月3日(火)と7月21日(土)の両日、坂東三津五郎さんを講師に迎えてのレクチャー「坂東三津五郎 歌舞伎でわかる江戸の粋」、「坂東三津五郎がひもとく“日本舞踊”」を江戸東京博物館ホールにて開催していました(→ )。わたしは両日とも伺いましたが、とても親しみやすく日本舞踊の魅力を伝えていて良いイベントでした。〔東京発・伝統WA感動
 


そうした下準備もあったので(伝説的な舞踊の名手、七代目坂東三津五郎〔1882-1961〕についてのお話を伺ったり貴重な踊りの映像を拝見でき、また「流星」の台本もそのとき読んで頭に入れておいたので、色々と役立ちました)、今日の公演では、今までの私自身の日本舞踊の鑑賞体験と比べて、格段に舞台全般を心から楽しむことができました。踊り手のほんのわずかな所作の背後に、どれだけ多くの事態や気配が畳み込まれているか。それを開いて解き放つ楽しみは、観客の想像力。よい踊りというものは、必要充分な気配に満ちているものである、という簡単なこと、当たり前なことが分かりました。それと同時に、その当たり前のことを現前させることがどれほど難しいことなのかも、踊りの迫力を通じて伝わってきました。踊り手として、踊りに伴う気配を読む力量や、それを具体化する技術・体力・精神力というもの。その上で、観客の心の波長と踊りが重なりあって、波がふっと高まる瞬間の高揚。……日本舞踊ならではの凄味と楽しみを、私も、垣間見ることができたように思います。

そして大事なことは、やはり、歌の「言葉」がきちんと聴こえるかどうかだということも分かってきました。今日の公演は、大方、唄方の声が良く、言葉がはっきりと聞き取れました。それによって、踊り手の所作がきちんと隈取られ、舞台の情景に立体的な厚みが生じ、踊りがさらに前面に浮き出て、いっそうリアルなものとして観ることができました。

個々の演目について感想を述べ始めると長くなりそうなので省略しますが、ともかく、この日の舞台は本当に素晴らしかった。NHKの収録カメラも数多く入っていましたので、放送が楽しみ!! 間違いなくDVDになるだろうと思います。とりわけ「楠公」の踊りにはしびれました。長唄の唄方は杵屋直吉さん、松永忠次郎さん、東音味見純さん、杵屋佐喜さんの四名。素晴らしかった…。


長唄楠公(なんこう)」
坂東三津五郎
唄:杵屋直吉
三味線:杵屋六三郎


長唄「大江戸両国花火(おおえどりょうごくはなび)」
静友己枝 作詞、七世杵屋佐吉 作曲、望月左武郎 作調、坂東三津五郎 振付
坂東以津緒、坂東若梢、坂東三扇秀、坂東朋奈、坂東幸奈、坂東里子、坂東冨起子
唄:杵屋佐臣
三味線:東音岩田喜美子


清元「流星(りゅうせい)」
流星 坂東三津五郎、牽牛 坂東巳之助、織女 尾上右近
浄瑠璃:清元清寿太夫
三味線:清元菊輔


清元 長唄「喜撰(きせん)」 六歌仙容彩(ろっかせんすがたのいろどり)」から
喜撰法師 坂東三津五郎、お梶 尾上菊之助
浄瑠璃:清元美寿太夫
三味線:清元菊輔
唄:杵屋直吉
三味線:杵屋六三郎

囃子:藤舎呂船
笛:中川善雄


そして、プログラム冊子の後ろのほうのページに、次回“芸の真髄シリーズ”の案内がありました。

予告 平成25年8月21日(水)国立劇場[大劇場]
「芸の真髄シリーズ第七回」 十二代目 市川團十郎


(堀内)