じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

イタリア録音日記 2

後藤すみ子先生とマリオ・ブルネロさんの録音のためにヴェネツィア近郊のカステルフランコに2日間滞在したことは、先日ご報告したとおりです。→ イタリア録音日記 1 - じゃぽブログ
じつはこの録音の旅には、もう一つ大きなイベントがありました。
出発までそろそろ1週間という頃、ブルネロさんから連絡があり、せっかく日本から録音に来るのだから、リハーサルを兼ねて前日にコンサートを開きたいという申し入れがありました。
後藤先生にお伝えすると快く受けてくださり、同行する高畑美登子さんにも演奏に加わっていただくことにして、急遽プログラムを組みました。今回の録音では使用しない三味線とお着物も荷物に入れていただいて、思いがけず、海外ではこれが36回目になるという後藤すみ子先生のコンサートが実現しました。
コンサートまでわずか1週間の準備期間で、しかもなじみの薄い日本の楽器。どれくらいお客様が来てくださるのか、またどんな会場なのか、期待と不安が交錯していましたが、開場時間が近づくと続々人が集まりはじめました。そして、用意した200脚以上の椅子がいっぱいになりました。

会場は「アンティルジーネ」という場所。ブルネロさんが運営するアートスペースで、もとは鉄工所だったところを5年前に改修したそうです。

アンティルジーネ antiruggine」とは「サビ止めのペンキ」のこと。工事現場などで目にする、あのサビ止めの赤い塗料です。
人間の存在や芸術というのは鉄のように確固としたものではありますが、鉄がさびるように、ともすれば風化してしまいがちです。それをとどめ、将来に伝える力になりたいというブルネロさんの思いが込められたネーミングです。会場には、これまで開かれたコンサートやイベントの写真が展示されていました。

さて、コンサートのほうは好評のうちに進み、最後はスタンディングオベーション、拍手の嵐でした。


夜9時からのコンサートでしたが、終演後もお客様はなかなか帰らず、お箏の近くに寄ってきて眺めたり質問をしたり、初めて出会った日本の楽器にとても興味をもったようすでした。遠くかわざわざやってきた人や、お箏を初めて聴いたというイタリア在住の日本人もいました。
コンサートの曲目は次のとおりです。
1 「尾上の松」(抜粋) 宮城道雄箏手付

2 「手事」 宮城道雄作曲

3 「幻想の平城山(ならやま)」 平井康三郎作曲 平井丈一朗編曲
4 「春の海」 宮城道雄作曲

生まれ育ったイタリアの小都市で、自らの力で芸術の灯を守ろうとするブルネロさんの心意気と、それに応えて集まった皆さんに敬意を表したいと思います。

そういえばカステルフランコで泊まったホテルの前に、以前訪れた時にはなかったブルネロさんを顕彰する像が建っていました。ブルネロさん自身が、地元の宝として大切にされている存在だと気づかせてくれました。
       

(理事長 藤本)