じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

横浜能楽堂CD「日中を旅した楽器」

邦楽の演奏会によくお出かけになる方ならば、このチラシにきっと見覚えがあるはず。今年(2012年)7月14日(土)に横浜能楽堂で開催された「日中を旅した楽器 ─三弦・三線・三味線─」の公演チラシです。中国起源の三弦(サンシェン)は、琉球に渡って三線(さんしん)となり、それが日本本土に伝わって三味線として独自の発展を遂げます。その三味線も、義太夫地歌長唄など種目によって楽器そのものに違った工夫が施され、多様な姿を見せているのが特徴です。この日の公演では、そうした楽器の歴史を繙いて、さすがに全部とはいかないので、代表的な種目を選び出し、それを人間国宝を含む当代一流の演奏者を招いて一堂に会して競演するという、日中音楽史上初となる、豪華で意欲的な舞台が実現しました。前評判も高く、当然チケットは早々に完売。歴史的なコンサートに相応しく、満員御礼の大盛況となりました。(横浜能楽堂はこの一日の公演のためだけに、3年前から少しずつ準備を積み重ねてきたそうです)

元は同じ起源をもつ楽器同士ということもあってか、出演した各演奏者は、自分がその種目を代表しているという思いが自然と出てくるようで、いつにも増して気合のこもった演奏となって、約4時間に及ぶ贅沢で充実したコンサートになりました。

そのときのライヴ・レコーディングがこのたび2枚組CDとなって、本日(2012年9月26日)横浜能楽堂から発売されました。(当財団がCD制作で協力しています)



「日中を旅した楽器 ―三弦・三線・三味線―」
YNCD-1001/2
3,619円+税
発売元:横浜能楽堂
販売元:邦楽ジャーナル

この日の長時間に及ぶ全演奏を収録することは能いませんでしたが、CD 1は76:45収録、CD 2は65:40収録と、精撰された演奏が並び、三弦(サンシェン)・三線(さんしん)・三味線それぞれの音楽表現の魅力を、卓(すぐ)れた水準の演奏でたっぷりと味わうことができます。

このCDは、「探していたCDもここでなら見つかる!」と評判の、優秀盤・貴重盤・選り抜き盤を数多く取り扱っている邦楽ジャーナルのウェブショップを通じて入手可能です(→ CD「日中を旅した楽器」)。また、横浜能楽堂の館内でも発売中ですし、アマゾン()でも購入できます。


収録内容は以下となります。

Disk 1
【大三弦】(だいさんげん)
1. 合歓令(ハァハウンリン)/三弦:趙承偉〔チョウ ショウイ(ジョウ チンウィ)〕、琵琶伴奏:高微〔コウ イ(ゴァ ウィ)〕
2. 十八板(シババン)/三弦:趙承偉
【福建南音】(ふっけんなんおん)
3. 霏霏颯颯(フェフェササ)/泉州南音楽団〔センシュウナンオンガクダン(チアンゾウ ナンイン イエトウン)〕 ── 琵琶:曽家陽〔ソウ カヨウ(ズン ジャイァン)〕、三弦:萧培玲〔ショウ バイレイ(ショウ ペリン)〕、洞箫(ドンシャオ):王大浩〔オウ タイコウ(ワン ダハオ)〕、二弦:吴一婷〔ゴ イテイ(ウ イテイン)〕
4. 四静板(スジンバン)/泉州南音楽団 ── 三弦:曽家陽、萧培玲
琉球古典音楽
5. 伊野波節(ぬふぁぶし)/歌三線:照喜名朝一
6. 二揚 仲風節(にあぎ なかふうぶし)/歌三線:照喜名朝一
八重山民謡】
7. 安里屋(あさどや)ユンタ/歌三線:宮良康正、山本藍
8. とぅばらーま/歌三線:宮良康正、山本藍
地歌
9. 黒髪(くろかみ)/歌・三弦:富山清琴、胡弓:郄橋翠秋
10. 曲鼠(きょくねずみ)/歌・三弦(替手):富山清琴、三弦(本手):富山清仁

Disk 2
義太夫
1. 野崎村の段/太夫:竹本津駒大夫、三味線:鶴澤寛治、鶴澤寛太郎
長唄
2. 鷺娘(さぎむすめ)/唄:今藤政貴、今藤長一郎、今藤政之祐|三味線:今藤政太郎、今藤美治郎、杵屋栄八郎|笛:藤舎名生|小鼓:藤舎呂船、望月太津之|大鼓:堅田新十郎|太鼓:藤舎清之
津軽三味線
3. 津軽じょんがら節(旧節)/三味線:福士豊勝
4. 弥三郎節/三味線:福士豊勝
5. 津軽おはら節(旧節)/三味線:福士豊勝


日本と中国は文化面で長い歴史的な関係にありますが、そのことの内実は、必ずしも充分に認識・理解されているとはいえません。なぜなら、今回のように楽器ひとつを取ってみても、その歴史を確かめ、起源を同じくする様々な種目が同じ舞台空間で共に音楽を奏でる試みはこれが最初だというのです。今後も引き続き、日中両国間において、さまざまなレベルで、お互いの文化を共に研究し、相互の理解を深めるための機会が増えていくことを希望しています。


そういえば、東京都が行なっている邦楽文化活性化のためのプロジェクト<東京発・伝統WA感動>()の次回公演は、横浜能楽堂の企画と同じく(柳の下の二匹目のなんとやら、か?)、題して、「三弦 海を越えて ─アジアから日本へ─」)というものです。開催日時は、2012年(平成24年)10月11日(木)18:00開演〔17:00開場、17:15プレトーク〕、会場は東京芸術劇場コンサートホール。全席指定 一般:4,000円 学生:2,000円。

上記リンク先の公演案内ページには、つい数ヶ月前に配布したチラシの情報の変更などが記され、なかには出演のキャンセルなどもあって、昨今の日中間の緊張の高まりの反映を伺わせるものとなっていますが、しかしこういった時期だからこそ、せめて文化面においては両国の交流を重ねていくことが大切なのだと思います。

 

この公演「三弦 海を越えて ─アジアから日本へ─」にこれからお出かけになるという方も、どうかぜひ、横浜能楽堂のCDをお聴きいただき、万全の予習をされていくことを強く強くお勧めいたします!

(堀内)