じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

文楽のこころを語る(本のご紹介)


4日前、10月4日、このニュースが流れました→http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121003-OYT1T01253.htm。9月12日にはこんな記事も→文楽のスーパースターが「台所事情」語る 竹本住大夫さん :日本経済新聞
夏頃にちょうど人間国宝竹本住大夫さんの文楽のこころを語る』を読んでおりました。初版は2003年8月。

同著の序によると、住大夫さんは幼稚園に上がる前から文楽の世界に興味を持ち、両親について来いと言われなくても勝手について行くほどの文楽好きで、小学校を卒業する時にも中学を卒業する時にも「大夫になる」と両親に話すほど心が決まっていたとのこと。けれども、その度に親父さんの反対があって大学まで卒業され、卒業後には戦争のためにすぐに入隊。その壮行会の余興で語った《寺子屋》を観た親父さんが、「そんだけ好きやったら、帰ってきて大夫になれ」と、はじめて許してくれたので、「絶対生きて帰ってこよう」と思われたそうです。

「親父さん」とは住大夫さんが誕生後間もなく養父となった六世竹本住大夫さんのこと。親父さんは、手元に置いて甘やかさないようにと、当時の二世豊竹古靭(こうつぼ)大夫師匠に息子を預けました。大学を卒業してからの入門は遅いスタートで厳しい世界でしたが、親の反対を押し切った手前、辞めるわけにはいかず、今日に至る…とのことです。伝統芸能の家元に生まれて親の家業を継いだ方はその運命に反発をする方もいると思いますが、住大夫さんはその反対だったようですね。

入門してからはギャラが出るか出ないかもわからない赤字続きの苦しい巡業の日々が続き、そして、昭和38年に関西の財界人や文部省(現文部科学省)等が話し合いをした結果、財団法人文楽協会が発足した、といういきさつについても書かれています。

この本の本編である第一章から第六章は代表的な演目(外題)ごとに義太夫の師匠が語るその「こころ」について書かれていますが、244ページからの、あとがきにかえて「浄瑠璃ってええもんです」の中に・・・「健康管理も芸のうち」というてた私が、昨年(平成14年2月)、初めて舞台を休みました。…中略…「早よう治さんとあかんな」と思いました。けれど、いつごろ舞台に出られるか、不安でした。…以下略・・・との文があります。その後の復帰公演のときのお客さんの拍手を大変ありがたく思われたとのこと。それから10年…、今年7月に軽い脳梗塞のために入院されていた師匠は、1週間前の10月1日に退院されました→http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/121001/ent12100119390013-n1.htm

舞台復帰の時期は未定でリハビリ中とのことですが、悔しい思いをされていることでしょう。一日も早くお元気になられることを祈っております。
最後の部分に「保存するだけの文楽やのうて、興行価値がいつまでも続くように、若い人たちが受け継いでいってほしいと、私は願っております。」と記されています。

こちらのDVDで竹本住大夫さんが語る「沼津の段」が楽しめます→じゃぽ音っと作品情報:竹本住大夫 伊賀越道中双六「沼津の段」 /  竹本住大夫

(J)