じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

岡大介・木馬亭独演会

この間の土曜日に、浅草の木馬亭で開催された岡大介(おか・たいすけ)さんの独演会に行ってきました。今回の公演の副題は、「風狂と反骨の演歌師・添田唖蝉坊 生誕140年記念うた会」。岡さんは、明治大正演歌、昭和歌謡をうたうカンカラ三線演歌師。特に唖蝉坊・知道親子のうたを歌っていることで注目を集めています。カンカラ三線は、太平洋戦争後、物資がなくなった沖縄で、捕虜収容所の中で「それでも楽器が必要だ」として手作りで生れました。米軍が支給した缶詰の空缶を使って、ベッドの枠の木を削って棹にして、そこに、パラシュートの紐を通して弦にしていました。つらい状況のなかで「うた」に寄り添ってきた楽器です。

その岡さんの木馬亭での4回目となる独演会。今年、ゲストとして登場したのが、近年同じく唖蝉坊・知道の演歌に取り組んで、かつて日本に脈打っていた魂のこもった「うた」を探究している土取利行さん。そして、知名定男さんやネーネーズのプロジェクトに参加して、土取さんとは以前から交流のあるベースの山脇正治さん。

コンサートは、最初岡さんのソロ。次に、山脇さんの伴奏が加わって、ここまでが第1部。次の第2部は、土取さんが登場してひとりで唖蝉坊について語り、三味線弾き語りで歌いました。第3部は再び岡さんがオリジナル曲などをひとりで披露。最後第4部は、三人揃って、ただし、土取さんはドラム・セットを担当。1時間45分の予定をオーバーする、圧巻のステージでした。

客席は超満員。補助の丸椅子が通路に並びました。

なにかと息苦しい昨今の日本において、この日聴いたうたは、解放感とともにすーっと心に落ちてきて、胸が焦がされました。希望と悔恨と批判と風刺にあふれ、「そうじゃない道もあるよ」と言われているようでした。

すーっと心に落ちてきた理由は、歌い方にもあったと思います。とかくこれまで、明治大正演歌といえば、「がなる」歌い方が多い印象ですが、土取さんのパートナーだった桃山晴衣さんが、添田知道さんから直々に教わった歌い方と、本来唖蝉坊がいつもアカペラで歌っていたときの歌い方は、もっとすーっと澄みきったものだったそうです。その歌い方による桃山晴衣さんの歌う演歌のテープは、郡上八幡の土取さんの手元に残っています。岡大介さんは、昨年以来、郡上八幡へ行っては、その歌い方をまなんで、これまでのレパートリーだった唖蝉坊演歌の歌い方に変化が起こっています。そして、岡さんは土取さんと出会い、土取さんの手元にある添田知道さんと桃山晴衣さんが残した多くの資料と接し、演歌の世界の奥深さを知るにつれ、「うたうことがもっと好きになった」とこの日、ステージの上で語っていました。

当日の模様は、こちらの動画をご覧ください。「復興節」と「東京節」。土取さんのドラム・ソロ(4分20秒あたりから)もカッコいい!


岡さんと土取さんと山脇さんによる、添田唖蝉坊・知道親子の明治大正演歌のコンサートは、たぶん、またどこかで聴けるだろうと思います。岡大介さんのブログと、土取利行さんのホームページを、ときどきチェックしておくことをおすすめします。

この日歌われて大きな喝采を博していた曲と、今年三人が岡山で開催したライブの模様を記録した動画をご紹介します。


添田唖蝉坊・金々節 / 岡大介 2011.05.19 北海道函館 亀しょう
 



添田唖蝉坊・ああわからない / 土取利行(弾き唄い)Don't Know/ Toshi Tsuchitori



LIVE土取利行・岡大介・山脇正治@岡山西大寺
土取利行・邦楽番外地@岡山西大寺観音院2012年9月7日
添田唖蝉坊・知道の明治大正演歌の世界
「野上パラダイス」(岡大介
「可愛いスーチャン」(土取利行)
土取利行(唄・三味線・話)岡大介(唄・カンカラ三線
山脇正治(ベース)


(堀内)