じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

邦楽アウトリーチ「日本語をうたう」

先週、千葉市内の中学校で邦楽のアウトリーチがありました。アウトリーチについては以前、「中学校の音楽室で(アウトリーチとは) - じゃぽブログ」という記事で紹介しましたが、今回も同じ(財)地域創造の邦楽地域活性化事業の一環で、山田流箏曲の朝香麻美子さん、佐々木千香能さん、小間由起子さんの3人の演奏家が中学校に出向き、3年生の4クラスを対象に、1時限ずつ2日間に分けてレクチャー付きミニ・コンサートを行いました。
「日本語をうたう」というテーマで、とりあげたのは古典の「臼の声(うすのこえ)」と現代の曲「のはらうた」。

「臼の声」の歌詞にはじつは「臼」は一回しか出てきませんが、「うす」という言葉がいくつも隠されています。「薄紫」「薄紅葉」「薄雪」など、意味は「臼」と関係ないのですが、「うす」尽くしになっています。日本人は和歌でも掛詞を好みますが、要は「しゃれ」好きなんですね。
生徒と一緒に「うす」探しをしたり、春夏秋冬をたどる歌詞を説明したりしながら興味をひきつける導入がうまくいき、演奏に入るとみんなよく聴き入っていました。
「臼の声」は音楽のほうでも「六段の調」のメロディーが隠されている部分があり、山田流発祥の地、江戸の遊び心が現れていることを一緒に学びました。

授業の締めくくりに演奏したのは、一転して現代の言葉で歌う「のはらうた〜3人の奏者のための箏唄〜」。工藤直子さんの詩に北爪やよひさんが曲をつけたものです。もとになった詩集「のはらうた」は、のはらの「みんな」が歌ったり語ったりしたことを工藤さんが書きとめたという趣向で、小さい子供にも人気ですが、中学校の教科書でもとりあげられています。
北爪さんは邦楽出身の作曲家ではありませんが、箏曲グループ「箏・三昧」の委嘱作品で、箏2面と十七弦による弾き歌いになっています。

お箏の裏をたたいたり、いろいろな道具で音を出したり、また奏者の動作にも指示があったりと見ても聴いても楽しい作品です。このなかから「おがわのマーチ」と「はなのみち」の2曲が演奏されました。
擬音があったり、古典にはないハーモニーがきれいに響いたり、かなりユニークですが、山田流箏曲で鍛えた発声とマッチして、生徒たちは喜んで聴いていたようです。授業が終わって音楽室から出ていくとき、口ずさんでいる生徒がいてうれしくなりました。
ほとんどの生徒は、お箏や三味線を間近で見たり聴いたりするのは初めてということでしたが、ふだんの授業とはちがう得がたい時間を持ったことを、いつまでも覚えていてくれるよう願います。


「臼の声」と「のはらうた」は、千葉市での邦楽地域活性化事業の仕上げとして来年1月に開かれる「新春邦楽コンサート」(1月19日(土)15時開演 千葉市美浜文化ホール)で、このメンバーによって演奏されます。
今年アウトリーチを行った他のチームのメンバーも意欲的なプログラムで出演します。会場は京葉線の検見川浜が最寄り駅です。ぜひお出かけください。

(Y)