じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

沢井一恵さん、没絃琴

先日11月16日の夜、平河町にあるROGOBA DESIGN ON LIFE_Tokyo(ロゴバ)にて、平河町ミュージックス実行委員会主催のコンサートシリーズ第18回「沢井一恵/没絃琴〜二十五絃、瑟(しつ)から一絃琴まで〜」を観に行ってきました。沢井一恵さんといえばじゃぽ音っと作品検索で見つかる作品のほか数多くの作品を発表、最近では2011年10月にcommmonsから「箏とオーケストラの協奏曲」を収録した佐渡裕 + 沢井一恵 Ryuichi Sakamoto presents:sonority of japan 点と面 point of surfaceが話題になりました。
タイトルにある「没絃琴」は江戸時代の僧侶・良寛作の漢詩から取られたそうです。Webサイト上でさまざまな方がこの有名な漢詩を取り上げていますが、「静かな夜にひっそりとひとり、弦のない琴を奏でる」といった意味合いの一節で始まる、とても味わい深い詩ですので、ご興味のある方はぜひご一読ください。下記プログラムをご紹介します。

沢井一恵/没絃琴〜二十五絃、瑟(しつ)から一絃琴まで〜

1. 柴田南雄:枯野凩〈かれのこがらし〉(十七絃箏・尺八)
2. 高橋悠治:残絲曲(瑟、朗読)
3. ロビン・ウィリアムソン:見知らぬ人の子供時代からの手紙
4. 一絃琴による即興
5. 西村 朗:覡〈かむなぎ〉(十七絃箏&コントラバス

ゲスト:善養寺恵介(尺八)、齋藤 徹(コントラバス)、高橋悠治(朗読)
瑟提供:真如苑

詳しいレポートは「平河町ミュージックス」のスタッフブログ内のこちらにあり、ご覧いただくと当日の雰囲気が写真とともに伝わると思います。今回で第18回目とのことですが、記念すべき第1回の出演も沢井一恵さんで、その模様もこちらでご覧になれます。
低音から高音までの広い音域を奏でる十七弦箏が席の間近にあり、沢井一恵さんの生音がダイレクトでこちらに届きます。十七弦の真ん中の弦だけに琴柱(ことじ)を立て、即興で押したり、弾いたり、擦ったり……と弦が発することのできる音の極限に挑むかのような「一絃琴による即興」の濃密な空気に息をのんだほか、尺八の名手・善養寺恵介さんが虚無僧のようにゆっくりと現われ、十七弦箏と対峙する「枯野凩」、大きなコントラバスを打楽器のように鳴らし、十七弦とともにうねるようなリズムやグルーヴを感じさせた「覡〈かむなぎ〉」は、今年の東京[無形文化]祭で目の当たりにして惹き込まれた「韓国珍島の死と祝祭」の迫力あるステージ(無形文化祭Facebookのアルバムで写真をご覧になれます)を思い起こさせもしました。
「見知らぬ人の子供時代からの手紙」はタイトルを「ア・レター・フロム・ア・ストレンジャーズ・チャイルドフッド/A Letter from A Stranger's Childhood」として、リマスタリングされた復刻CD『目と目/EYE TO EYE(Produced by Ayuo)』(1987年)に収録されています。どこか遠い日の郷愁を感じさせるような雰囲気(上記のリンクされたページで試聴ができます!)。
また「琴瑟相和す(きんしつあいわす)」という仲睦まじい夫婦を例える言い方があり、中国の王の墳墓から出土して復元された25弦の「瑟(しつ)」(写真)。「残絲曲」はきらびやかで美しい瑟の音色をバックに中国の詩人・李賀の詩をもとにした朗読を作曲者の高橋悠治さんご自身が担当……どの曲も普段なかなか聴くことのできない、ユニークなプログラムでした。
終演後のアンコールを楽しみにしていたところ、なんと沢井一恵さんから「みなさん、箏に触れて音を出してみてください」というサプライズ!さっそく自分も「一絃琴」にした十七弦箏を弾いてみたり、別の指で押さえてハーモニクスのような音が出せないものかなどとトライしてみたものの、思い描いていた音は鳴りませんでした(^_^;)。前述の漢詩を詠んだ良寛法師のような研ぎ澄まされた感性こそありませんが、最後に箏という楽器そのものを直接感じさせる機会がいただけるとは。単に聴くだけではない、心に何かが残る素晴らしいコンサートでした。

今回のコンサートに関連したじゃぽ音っとブログ記事をいくつかご紹介します。
「野坂操壽・沢井一恵デュオTV出演」 ★ロビン・ウィリアムソン:ア・レター・フロム・ア・ストレンジャーズ・チャイルドフッド(A Letter from A Stranger's Childhood)のお話あり
「下野戸亜弓 箏曲リサイタル2011」 ★「枯野凩」(能管:芝祐靖、十七絃箏:沢井一恵)がCD『柴田南雄と日本の楽器』に収録とのお話あり
「沢井一恵 箏=KOTO 360°」 ★沢井一恵さんの大特集です。読み応えたっぷり!

(じゃぽ音っと編集部T)