じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

鎮魂のうたまい・大償神楽

東日本大震災から2年が経ちましたが、昨日、小島美子先生が企画・構成する公演「鎮魂のうたまい」が紀尾井ホールで開催されました。

午後二時四十六分には鐘が鳴り、会場の全員で黙祷をささげました。「犠牲者の魂を鎮めるという日本古来からの芸能の原点に立ち返らねばいけない」という小島先生のコメントがありましたが、音楽を奏で、舞を舞って、霊を慰め、鎮魂の祈りをささげる、という事は、民俗芸能の原点なのだと思いました。
尺八の山本邦山、地歌の富山清琴、常磐津節常磐津英寿各師をはじめ、邦楽・伝統芸能の各分野にわたる錚々たる方々のご出演で、第一部は「鎮魂のまい」、そして黙祷があり、第二部「鎮魂のうた」と続きました。
第一部の舞の部では、雅楽の芝祐靖師による「亡き人の魂を呼ぶ笛」、観世流シテ方の関根祥六師による「鎮魂の祈りのことば」、花柳寿南海、橘芳慧、佐藤太圭子各師による「巫女舞」、そして、岩手県の「大償神楽 山の神舞」が上演されました。
第二部の歌の部では、「魂を招く尺八」が演奏された後、岡野弘彦氏の歌集『美しく愛しき日本』(角川学芸出版)より「祈りのうた」を題材に作曲された「鎮魂の祈りのうた」、そして「未来への歌」が歌われました。すべての祈りは、会場を越えて届くような気がしました。
第一部の最後に上演された「大償神楽(おおつぐないかぐら)」ですが、「岳神楽(たけかぐら)」と共に「早池峰神楽(はやちねかぐら)」と総称され、岩手県花巻市大迫町に約500年前から伝えられている山伏神楽で、ユネスコの世界無形遺産に登録されたそうです。(花巻市のサイト◆)
昨日会場で舞われた、花巻地方神楽協会長の佐々木隆さんは、大償神楽の舞の名手とのことで、会場ではじめて拝見した気迫に満ちた「山の神舞」は、印象深かったです。御年82歳とのことです。(岩手日日新聞社2013.3.07記事◆)
弊財団より、大償神楽の音源を収録するCDが出ております。『復刻 日本の民俗音楽(36枚組)』(◆)「大償神楽」は、Disc 6に収録されています。

日本の伝統音楽の基礎となる日本各地の民俗芸能を収録した歴史的な音の記録。幻の秘蔵音源の数々を復刻したCDです。
CD復刻に寄せられた言葉として、日本伝統芸能研究所所長を勤められた高橋秀雄氏の「甦る日本人の魂の旋律」を紹介させていただきます。今までは、古いものだから残さなくてはいけないと漠然と思っていましたが、民俗音楽、民俗芸能が存在する理由が「祈りの心」だと解ると、考え方も変わってくるような気がします。

音楽・舞踊・演劇などの芸能は、宗教儀礼に起源を有するという学説がある。キリスト教における賛美歌の存在はその学説を首肯させる一つの有力な例示であるともいえるであろう。
日本人は、古くからさまざまの願いを神に祈った。その切実な祈りの心が、やがて律動的に表現されるようになって、宗教的な音楽や舞踊が生まれてくる。そして、その音楽や舞踊は祭りの庭の中で豊かな彩りを見せるようになる。
生きる幸せを求めるこの日本の民俗音楽は、長い歳月をかけて土地の人びとによって伝承されてきた。その確かな、そして清々しいひびきの中に日本人の魂がある。
それが集大成されて「日本の民俗音楽」が復刻された。かつてレコードで出されたものをCDに編集したのである。時代の流れとともにすでにこの世から消えてしまった民俗の音楽もある。その音楽をも収録されている「日本の民俗音楽」はまことに貴重な無形の文化財の記録でもある。日本人であることを識るためにも、この音楽を聴いてほしいと願っている。

(制作担当:うなぎ)