じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

道成寺の世界

今日は「道成寺」についてです。先日「石橋の世界」というブログ◆を書いた時に、「道成寺」も気になっていたところ、事務所の本棚に、別冊太陽「道成寺」(1992刊)という本を発見しましたので…。本の中で、武蔵野大学名誉教授の増田正造先生が、能の『道成寺』の魅力について執筆されていました。
【なにがこれほどまでの魅力の原因なのだろう。これほど芸能や文芸の大きな流れになったテーマはない。(中略)男性は、女性がいかに恐ろしいかという潜在意識が、この能の人気を支えていると言う。女性は、一度でもこれほど追いかけられてみたいという男性の願望のあらわれだと主張する。】
身に覚えがある、ないかは、別としてですね、、、、『道成寺』は、紀州道成寺に伝わる、安珍清姫伝説に取材した作品です。観世小次郎信光(1434〜1516)作といわれる『鐘巻』(かねまき)が原作で、再構成されたものだそうです。安珍清姫の伝説については、平安時代の『大日本国法華験記』(『法華験記』)、『今昔物語集』に見られるそうです。

弊財団より発売中のDVD。「〜能と花の二夜〜 能「道成寺〜赤頭」(出演:観世喜正、野村萬斎、ほか)」◆
能『道成寺』ですが、【昔、真砂の荘司という者の宿坊に、毎年熊野詣にやってくる山伏がいた。荘司の娘は、父の冗談からその山伏が夫になる人だと長い間信じていたが、娘が「早く嫁に迎えて」と山伏に迫ったので、山伏は驚いて逃げ出す。娘は、山伏に裏切らたと思いこみ、女の一念はついに蛇の姿となって、日高川を渡り、道成寺に隠れた男を鐘もろともに焼き尽くしてしまう。】
という道成寺にまつわる恐ろしい物語があったわけなのですが…。
能舞台では、道成寺の住僧が登場して「今日は、ながらく絶えていた鐘が再興された供養の日である」ことを告げます。鐘を吊るのは、「能力(のうりき)」という寺男です。
鐘を運び滑車に通すのは、狂言方の役だそうで、鐘が登場した時からただならぬ威圧感があります。鐘は約80〜100キロ程あるそうで、能舞台の天井には滑車が、柱には環がしつらえてあり、道成寺だけに用いられるのだそうです。以前私が見た舞台では、狂言鐘後見で山本東次郎先生がご出演されていましたが、張り詰めた空気がありました。(山本東次郎先生関連商品☆)◆
二人の能力は、鐘の管理を任された晴れがましさが奢りに転じ、女人禁制の法要の場に、美しい白拍子を招き入れてしまいます。白拍子が鐘の中に飛び込み、鐘が轟音を立てて落ちた瞬間、彼らは犯した過ちの重大さに気づき、お互いに責任を押し付け合います。大変な場面なのですが、そのやり取りで緊張感が少し解けます。
「は。落ちてござる。」「落ちたるとは」「鐘が鐘楼より落ち申して候」「何と鐘が鐘楼より落ちたると申すか」能力の報告を聞いた住僧は、鐘にまつわる話を始めます。女の執念が、いまだに残っていることを知った僧たちは、力の限り祈祷します。
能『道成寺』は、「乱拍子」、「急之舞」 、「鐘入り」と思わず息を詰めて見入ってしまう見せ場が続きます。先日、お伺いした能楽囃子葛野流大鼓方の亀井広忠さんの会(第5回広忠の会)のプログラムでも、「道成寺」について【能楽界において全ての役者が目指す曲であり、この曲ほど「総合芸術としての能」を意識させられる曲はございません。】と述べていらっしゃいます。

(亀井広忠さんのCD。能『道成寺』の面白さを囃子だけで表現した《道成寺組曲》を収録☆)◆
道成寺伝説は芸能の世界に取り込まれるようになり、「道成寺物」というジャンルが形成されます。歌舞伎舞踊では、1753年(宝暦3)、江戸中村座で、初代中村富十郎によって初演された『京鹿子娘道成寺』などがあります。道成寺伝説に基づいてはいますが、実際には演者の踊りそのものを鑑賞するのが見どころとのことで、舞の華麗さ、品格の高さ、重たい衣装を着けて約1時間近くを一人で踊り切る体力などが要求されるそうです。大変そうですが、憧れますね。

弊財団より発売中のCD。七世芳村伊十郎の若き日の唄声による、長唄《京鹿子娘道成寺》(昭和13年録音)☆◆
『石橋』の時は ♪獅子團乱旋〜という詞章がくると「キターー」という感じになっていましたが、『道成寺』では、
♪花の外には松ばかり 花の外には松ばかり 暮れ初めて鐘や響らん ♪鐘に恨みは数々ござる 初夜の鐘を撞く時は 諸行無常と響くなり 後夜の鐘を撞く時は 是生滅法と響くなり
でしょうか。
地歌《新娘道成寺第7回ビクター伝統文化振興財団賞「奨励賞」藤井昭子☆◆ 》](地歌では《鐘が岬》ともいいます。)
 
琵琶の語りの道成寺もあります。肥後の琵琶弾き 山鹿良之の世界〜語りと神事〜 (3枚組)☆◆

文楽では『日高川入相花王』、琉球組踊では『執心鐘入』で道成寺伝説がテーマとなっています。まだまだあります。幅広いですね。「〜道成寺」という演目を見かけましたら、是非お出かけいただき、チェックしていただければと思います♪

(制作担当:うなぎ)