じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

落語・怪談噺の話

以前のブログで、古今亭志ん輔師匠の高座に足を運んだことを記しましたが、その時のメインの演目が「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」。お金を増やすことが楽しみな高利貸し・皆川宗悦が、旗本・深見新左衛門に切られたことが序章となり、新左衛門の息子の新五郎・新吉と、宗悦の娘の豊志賀・お園との複雑な因果関係へと繋がってゆく物語。「人情噺」でもあり、そして「怪談噺」でもあります。
先日CDショップの方と落語について話していた時、「春が終わり、これから暑い、暑い夏がやってきます。そうすると、怪談噺の需要が増えてくるんですよね。ぞっとする、背筋が凍るような、身体の内側から来る寒さ、というより寒気を欲しているんですかねぇ」と。確かにお化け屋敷は、夏に活況を呈しますよね。というわけで、本日の話題は「怪談噺」。
日本三大怪談と言われるのが、「四谷怪談」、「皿屋敷」、そして「牡丹燈籠」。「四谷怪談」は、鶴屋南北の歌舞伎や三遊亭圓朝師匠の落語が有名。「皿屋敷」は、播州姫路が舞台の「播州皿屋敷」、江戸番町が舞台の「番町皿屋敷」が広く知られています。「牡丹灯籠」は、三遊亭圓朝によって落語の演目として創作された怪談噺。いずれも映画化、あるいは歌舞伎の題材としても取り上げられ、ひとつのジャンルとして確立されていますね。
その他主なものを挙げると、前記しました「真景累ヶ淵」。男女の愛憎と因縁が複雑に絡み合い、果てることなく続く血族同士の悲哀を描いている物語。また、柳家喬太郎師匠の「鬼背参り(おにのせまいり)」は、新作落語で、舞台は江戸時代。こちらも怪談噺でもあり、人情噺。陰陽師も出てくれば、鬼も出てくる、男女の悲しいラブストーリーとなっています。以上のように「夏の風物詩」となっている「怪談噺」ですが、その中で落語に数多く登場することで有名なのが「幽霊」。ただ、落語に出てくる幽霊というものは、怖い、というよりもどこか滑稽なところが多いのも特徴です。
そこで、弊財団が取り扱っている作品の中から、代表的なものをご紹介します。
まずは、「へっつい幽霊」。ある道具屋から買ったへっつい(ご飯を炊くかまど)から幽霊が出るというので、買う客みんな一日ともたずに慌てて返品に来る。引き取っては売りの繰り返しで、最初は儲かると喜んでいた道具屋だったが、そのうち「幽霊の出る道具を売る店」と評判が立ち、ほかの品物も全く売れなくなってしまい。。。お金に未練がある、バクチ好きの幽霊が登場する噺ですね。
◆六代目三遊亭圓生「水神/へっつい幽霊」
◆五代目古今亭志ん生「へっつい幽霊/文七元結」
この噺は、へっついという言葉からも分かるように、元来が上方の噺で、三代目三遊亭圓馬師匠が明治の末に東京へ持ってきたと言われています。圓生師匠は、三代目圓馬から教わったというより、聞いて覚えたので、上方の型です。三代目桂三木助師匠も同じような型でやっていました。最初に上方弁の男が出てきて、それから若旦那と熊さんが出てきますが、東京にもう一つあった型は、若旦那が出て来ないで、熊さんだけです。
サゲも圓生三木助、そして五代目古今亭志ん生師匠も「あっしも幽霊だ、決して足は出しません」とやっていましたが、東京でやっていたのはこれと違いました。熊さんが、幽霊から巻き上げた金で、家へ仲間を集めてバクチをやっていると、そこへ幽霊が来る。「何しに来た?」「いや、あんまり顔が揃っているから、少しテラをこしらえてもらおうと思いました」とサゲます。バクチのテラ銭と、お寺をかけたサゲで、幽霊だから寺を作って欲しいというわけです。
その他の幽霊噺としては、「野ざらし」。浪人尾形清十郎が向島での釣りの帰り、葦の中を見ると野ざらしになった屍が。手向けの回向を施すと、その晩、お礼にと美女の幽霊が訪ねてきた。隣家の壁から覗いていたひとり者の八五郎、すっかりうらやましくなり、自分も美女の骨を探しに行こうと無理矢理釣り竿を借り、向島へ行ったが。。。三代目春風亭柳好師匠が、「がまの油」と並んで、看板芸だった噺です。
◆ 三代目春風亭柳好「野ざらし/鰻の幇間/羽織の遊び/宮戸川」
陽気な、楽しい噺として柳好はやっていますが、もとはそうではありませんでした。俗に托善正蔵と言われる、三代目林屋正蔵師匠(当時は林家ではなく、林屋と書きました)が、中国明の時代の笑話集「笑府」の「学様」をもとにして作った噺で、仏門出の正蔵らしく陰気なものでした。それを明治になってから、ステテコ踊りで売った初代三遊亭圓遊師匠が、陽気な現在の形に改め、柳好はそれをさらに明るい噺にしたそうです。
ここまで「怪談噺」について、いろいろと書いてきましたが、個人的に興味がある! というよりも、逆に「怪談噺」はとても苦手なジャンル、が正直なところ。夢にでてきたらどうしよう? という私ですので、話が深くなる前に、このあたりで本日のブログはお開きに。。。

(よっしゃん)